前にも書いたことがあると思いますが、20代の中頃、調布でひとり暮らしをしていた時に、通いの猫、大佛次郎風に言えば“外様猫”を飼っていたことがありました。その頃、住んでいたアパートは、ベランダもなく、窓を開けるとそのまま外に出られるようなところで、目の前は畑が広がっていて、アパートとの間には割と高い囲いがあって、庭とは言えないけれど、小さな空間ができていました。その空間は、その猫の通り道になっていたようで、部屋の中で何かしていると、塀の向こうから猫があらわれて部屋の前を通って、またどこかに行ってしまうのが、ときどき視界の隅にかすかに見えたりしていました。
何度か通り過ぎていく猫を見ているうちに、ある日、餌を飼って窓の外に置いておくことを思いついて、スーパーで猫の餌を買って、朝、バイトに行く前に窓の外に置いておきました。はたして、夜、家に帰ってくると餌はなくなっていたのです。でも、家にいるときに餌を置いておいても、なかなか姿を見せません。そのくせ、お風呂に行って帰ってきたりすると、餌がなくなったりしています。そんな風に朝、餌を置いて家を出て、帰ってくるとなくなっている、という状態が数週間続きました。
そのうち何がきっかけだったのか忘れましたが、わたしが餌を用意していると、囲いの向こうから顔をだしたりして近づくようになって、いつの間にか餌を食べ終わってもしばらくのあいだは、部屋の前で寝ころんだりしたり、頭をなでてやるとすり寄ってきたり、部屋の中に入りたがって網戸をガリガリするようになってきました。でも、そのころ私は、腕や首筋にアトビーが出ていたし、季節の変わり目には、必ずぜんそくの発作が出ていたので、部屋の中に入れてやることはできず、実際、何回か入れてやったこともあるのですが、30分くらいでわたしのほうがゼイゼイいって、苦しくなったりしたのです。
わたしはその猫にサバをいう名前をつけてました。サバは次第に、わたしが部屋にいるときは部屋の外にいることの方が多くなってきました。たいていは窓の下で寝ころんでいるのですが、部屋にいる私が立ち上がったりすると、餌をもらえるのかと思い、起きあがってガラスを叩きます。わたしが出かけているあいだは、どこかに行っているようで、帰り道、家の前の道を歩いていると、アパートの向こうから走ってくる音が聞こえ、部屋の電気をつけると、立ち上がってガラス窓寄りかかっているサバの姿が、曇りガラスの向こうで影となって見えました。
そんなサバがあるとき姿を見せなくなったのです。(この項続く?)
大阪から来た友達と久しぶりにあった。去年の9月から東京に来ていたのだから、“来た”というのはちょっと間違っているかもしれない。
「あまカラ」に掲載された随筆をまとめた本で、編者をつとめた小島政二郎はもちろん、志賀直哉、永井龍男、獅子文六、福田恆存、徳川夢声‥‥といった作家の随筆が収録されている。あとがきには二冊目、三冊目と続けていきたい、といったことが書いてあって、実際にこの後、何冊か刊行されたらしい。
どのよう意図でまとめられた本なのかよく分からないし、それぞれの初出も書いていないので、どのような経緯で書かれた文章なのかもまったく推測できない本。基本的には本人の体験談を語った随筆なのだけれど、どの作品も獅子文六のストーリーテラーの才が光っていて、短編小説のような雰囲気があって、それでいて力の抜けてリラックスした文章がとてもいいです。まぁ1964年、獅子文六70代の頃の作、ということを考えると、リラックスした雰囲気も、いぶし銀のストーリーテラーもなんとなく納得がいくような気がします。
“あんつる君の便箋”とは、安藤鶴夫が小泉信三の誕生日に贈り、後に「気に入ったので注文したらまた作ってもらえるだろうか」と問い合わせがあったほど、気に入られた便箋のことで、小泉家ではその便箋のことを“あんつる君の便箋”と呼んでいたらしい。
東京に関する本を読もうと思っていた年末頃に探していた本を、今ごろになって見つける。関東大震災で大きく変わった東京を描くことを目的に昭和3年に編纂され、その後の多くの東京本に影響を与えた本らしい。「どんな風に」といわれてもその辺はよくわかりませんが。芥川龍之介、泉鏡花、北原白秋、久保田万太郎らが執筆した下町編もあります。
気がつけば旅行から帰ってきて日にちが経ってしまったので、なんだかここにパリの話を書くのもなぁとか、考えてみればとりたてて書くこともないしなぁ、なんて思ったりもする。
旅行から戻って、時差ぼけが戻らないまま、終電近くまで仕事したりして、ようやく週末。さすがにぐったりとしてしまって、昨日、今日は、朝、目が覚めたら12時近くなってました。そのせいで体はすっきりしたけれど。
今週は家に帰ってくるのが遅かったのでなかなか雑記を書いている時間がとれず。新着本もお休み前にもう少し更新する予定だったのだけれどぜんぜん更新できませんでした。そんな状態なのですが、明日からパリ(フランスのほうね)に行くためカヌー犬ブックスは少しのあいだお休みさせていただきます。昨年の10月にバリ(インドネシアのほうね。モニターだと点と丸の違いがわかりにくいからなぁ)に行ったばかりなのに‥‥という感じではあります。まぁこの時期だからチケットが安いとかいろいろいろいろあるわけで‥‥。
去年の夏、京都の下鴨神社の古本市で「食いしん坊」「第2食いしん坊」と一緒に3冊セットで買ったもの。途中まで読んで、カバーを掛けたまま本棚に置きっぱなしにしていたので、すっかり忘れてました。小島政二郎はおもしろいのだけれど、割といろいろなことに対する愚痴というか文句が多いので、続けて読むと「もういいや」という気分になってしまったりもします。