「焼き餃子と名画座」-平松洋子-

◆一人飲みの金曜日

7月に横須賀、鎌倉に行ったときに持っていった吉田健一の「作法・無作法」を品川で読み終えてしまい、読みたい本もあんまり置いてなかったので、軽く読めるかなと思い購入した本。
平松洋子さんの食エッセイは、カヌー犬ブックスにもたくさんあるので、ちょこちょこ斜め読みはしていたけど、きちんと読むのは初めて。知っているところもいくつか出てきたりして楽しいし、何より平松洋子さんの“食べる”ということに執着する姿勢が心地よい。いや執着というとちょっと重いというか、もっと軽やかな前のめり加減が読んでいてちょうどいい。あと、おいしいものを特別なこととしてとらえてなくてあくまで日常の中の楽しみであって、それならそれをとことん楽しんじゃおうという感じが伝わってきます。
といいつつ、そのあとも気が向いたときに斜め読みしかしてないんですけどね。料理エッセイってほんとはじっくりと読む本ではなくて、斜め読みまでいかなくても、出かけるときに普通の本と料理エッセイの2冊持って行って、2対1くらいの割合でかわりばんこに読んでみたり、家に帰ってきて、ビール飲みながらとか寝る前とか毎日2、3編ずつ読んでいくとか、そういった読みかたが合ってるような気がします。

毎週、金曜は会社帰りに古本屋とかレコード屋とかに寄り道して帰ってるのだけれど、最近は、いろいろ回った後に、荻窪とかで一人でちょっと飲んで帰ることが多い。と言っても、たいていお店に入る時間が10時半はまわってるので、中瓶1本とつまみと2、3くらい頼んで、本を読んだりツイッターのTLを眺めたりする感じです。前は一人でどこかに入って飲むなんてことはほとんどなかったんだけどねぇ(というか会社の人と週に2、3回は飲みに行ってたからな)。
なんとなく一人でなにかをするようになったら、ほんとに自分が好きなものなんだなぁと思う。美術館や映画館とか最初は友だちと行ってたと思うんですよ。それがだんだん一人で行くようになったりすると、身軽な分、行く頻度が多くなっていくというね。あるいは旅行とかクラブとか、もっと言うとキャバクラ(わたしは行かないけど)とかもそうなんじゃないかと‥‥。

そんなわけで、金曜の夜はたいてい荻窪のガロネロとかヴィレッジバンガードダイナーとかその辺の中華屋さんとかグラブとかで飲んでるんですけど、一瓶のビールでちょっとだけいい気分になりつつ、「あーここ平松洋子の『焼き餃子と名画座』に出てきたなぁ」なんて思いながら、まぁその頃は当然閉店してしまってる北口の川勢の前を通ってます。(まぁさすがに一人で鰻は食べません~)

「作法・無作法」-吉田健一-

◆10月6日に小金井神社で行われるはけのおいしい朝市に参加します!

いくつかの新聞に掲載した短めの文章をまとめた本。小西康陽が引用したことで有名な「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」という言葉が出てくる「長崎」も収録されてます。「長崎」は「感想B」(1966年)にも収録されているのを以前読んだし、「新聞一束」(1963年)にも収録されているようですが、「作法・無作法」は1958年に出ているので初収録になるのかな。しかし前に読んだと言ってもこの部分だけ有名になってしまったせいか、前後の印象がすっかり薄れてしまってこんな内容の文章だったっけ?みたいな感じでした。
そういえば山口瞳にも「作法・不作法」ってタイトルの本ありましたね。師匠の高橋義孝の対談で、礼儀作法とはこういうものだみたいな話をしていた記憶があります。

1か月以上ぶりの更新で告知というのもなんですが、10月6日に行われるはけのおいしい朝市に参加します。
いつもはdogdecoさんや中村文具店さんで開催されているはけ市ですが、今回は50回記念ということで小金井神社で開催、30店舗以上が参加し、音楽イベントやワークショップも行われるというかなり楽しいイベントになりそうです。
わたしは漣くんの幼稚園の友だちと一緒に古本と中古レコードのブースを出します。まだどんな本を持って行くかなどぜんぜん考えてませんが(いや、そんなに選択肢ないんですけどね)、子どもたちもたくさん遊びに来そうなので絵本をちょっと多めに持っていこうかな、などと思ってます。ほんとはそこで読めるように椅子をたくさん持っていきたいんですけどね~
武蔵小金井の駅からちょっと歩きますが、近くには野川があっていい散歩道になってますし、そこからもうちょっと足をのばせばくじら山や武蔵野公園もあったりして、天気がよければのんびりとした休日を過ごせるのではないでしょうか。

それからチラシにも掲載されてるように古道具、革靴、かご、器、レザーアイテム、木工品、犬雑貨‥‥など、手仕事のもののお店が多く出店しますので、参加している人とちょっと話してみたりするとおもしろい話が聞けたり、これをきっかけに長くつきあえるようなものとの出会いがあると思います。当日はわたしもミオ犬とお店版を交代しつつお店をまわってみたいと思ってます~くわしい出店者の紹介ははけのおいしい朝市公式サイトでチェックしてみてぜひ遊びに来てくださいー。よろしくお願いします。

■はけのおいしい朝市公式サイト:http://hakeichi.net/

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「毎日が冒険」-萩原朔美-

◆蒲田東急プラザの観覧車とホットケーキ

萩原朔美は、萩原朔太郎の孫であり萩原葉子の息子。10代後半にジャズ喫茶でバイトしていた時に寺山修司と出会い、「天井桟敷」の立ち上げに参加。役者として舞台に立ったりしたあと(一度だけのようですが)、演出を手がけるようになります。演劇だけでなく、実験映画を制作したり、雑誌「ビックリハウス」の編集長をしたり、大学で教鞭をとったりと幅広い活動をしているようです。

この本では、日々のできごとや天井桟敷時代などの想い出といった身辺雑記や植物や街をテーマにしたエッセイなどが収められています。三月書房の小型本は、小さい割にはわりと分量があるので、特にテーマもなく随筆が収録されていても、かといって一つのテーマに絞っても、途中でちょっと飽きてきたりしてしまうので、3部構成になっていて、しかもテーマやスタイルがはっきり分かれているのはいい。

ちなみにこの本の装幀は、当時24歳だった萩原朔美が手がけた同じ三月書房から出ている母親の萩原葉子の本「望遠鏡」を踏襲したものになっているらしいです。そして萩原葉子の本では望遠鏡だった絵が、「毎日が冒険」ではエンピツになっており、その絵を描いたのは萩原朔美の長男という‥‥と言っても「望遠鏡」のほうはまだ手に入れてないんですけどね。

7月も終わり、二週間の一人暮らしも終わり。子供たちを羽田空港に迎えに行く前にちょっと蒲田に寄り道。あんまり時間もなかったのでまずは東急プラザの屋上へ。ここは東京で唯一屋上にある観覧車があるのです。しかもレトロな雰囲気のこじんまりとしたもので、前々から子供たちと遊びに行きたいと思っていたのですが、さすがにこれ目的で蒲田まで行くのはちょっとね。観覧車のほかにもそれほど広くはない屋上にたくさんのゲーム機や乗り物があり、近くにあったらしょっちゅう行きそう。吉祥寺や立川にこんな屋上があればいいのにね。さすがに一人で乗るわけにもいかないので、屋上を歩き回っただけで、降りてきました。

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-その東急プラザの4階には、シビタスというもともとは万惣フルーツパーラー蒲田支店だった喫茶店(?)があります。万惣フルーツパーラー仕込みのホットケーキが食べられて、それにまつわる話が壁に貼られていたりするのですが、全体的にデパートの中にあるカジュアルな喫茶店という雰囲気。平日の昼間だったこともあり、お客さんも年配の女性の団体や子供連れの親子、外出途中の会社員といった人たちがほとんどでした。特に売り場と壁で区切られているわけでもないのに全席喫煙可って今どきあまりないですよねぇ~

万惣フルーツパーラーのホットケーキは10年くらい前(?)に神田で食べたことがあるだけなので味の方は比べられないけれど、適度にふわっとした食感がよかったです。前回ホットケーキが築地のコリントだったこともあってそう感じただけかもしれませんが‥‥

ついでに古本屋をちょっと見たりして(いや、こっちが本来の目的だったのですけどね)、商店街にある純喫茶リオでコーヒーを飲む。おばあさんが一人でやっていて、しかも店内にお客さんが誰もいないという状態。でもこういう古い喫茶店で今でも続いているお店って、テーブルや椅子をはじめお店の中にあるものすべてがそのままなんだけれど、きちんと手入れされていてきれいに使われている感じがしますね。そういうところが長く続いているりゆうなんだろうなぁ、なんて思いました。

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「写真ノ話」-荒木経惟-

◆デイジーワールドの集い@青山スパイラルCay

荒木経惟の写真は雑誌をはじめとしたメディアでちょこちょこ見るけれど、きちんとした写真集は見たことがないです。エキセントリックな言動がフィルターになってしまっているせいか、どうも自分の嗜好とはまったく違う次元の人で、接点を感じられないところにその原因があるんじゃないかなとか思ったりしてしまいます。でもこうやって一冊を通して本を読んでみると、ちゃんと写真集を読みたくなるようないい話、フレーズに溢れていたり、アラーキーの正統な面とエキセントリックな面が出ていておもしろい。この両方の面をきちんと見ないとダメなんだという荒木経惟のファンならあたりまえのとも言えることにようやく気がついた次第。

さて、先週の水曜ははじめてデイジーワールドの集いへ行ってきました。
前々から行きたかったのですが、なかなか行く機会もなく、最近はチェックもしていなかったのですが、前日にたまたま知りこれは行くしかないと‥‥。

ゲストは事前に告知があったリトルクリーチャーズと、直前になって決まったらしいハナレグミ。まぁそんなに細野晴臣に交流のあるミュージシャンではないような気もしますが(わたしが知らないだけです‥‥)、両方ともライブを見るのも久しぶりなので、7時過ぎに強引に会社を出て、スパイラルへ‥‥

リトルクリーチャーズは、新しいアルバムも聴いてないし、最近の活動もあまりよく知らないけれど、ほんと変わらないスタンスで活動を続けていて、なんだかすごい。この日はライブということもあってか、インスト部分が多い演奏だったのがよかったです。こう言っちゃなんだけど、青柳拓次は、けっして歌がうまいわけでもないので、演奏がうまいだけにヴォーカルになるとちょっと肩透かしな感じになっちゃうんですよね。別に歌わなくてもいいのでは?とも思うけれど、それはリトルクリーチャーズ以外での活動でやってるからいいのかな?でも3人でのインストアルバムを聴きたい気もしました。

ハナレグミは基本弾き語り、途中でユザーンのタブラが入る形。歌の途中に「ブギーバック」が入ったり、ユザーンとの掛け合いがあったりと、和気あいあいとした盛り上がりが楽しい。こういうノリのライブを見ているとスーパーバタードッグも解散せずに並行して活動を続けていてくれてたら、と思いますね。

高田漣の弾き語りを挟んで、最後は細野晴臣。最近のアルバムからの曲で、鼻歌のような細野さんのヴォーカルがcayの雰囲気に合ってました。こうやってシンプルな演奏をバックに歌を聴いていると、細野晴臣の作るメロディって実はあんまり変わっていないというか、その時々によってサウンドが変わるのでぜんぜん違うものとして聴いてしまうけど、多分、「泰安洋行」の中の曲をこのバンドでやってもあまり違和感はなんじゃないだろうか。というか、むしろ聴いてみたい。

最初に告知されていたゲストがリトリクリーチャーズだけだったせいか、人で溢れかえるという感じでもなく、席に座ってカレーを食べたりしながらリラックスした雰囲気でライブが見れたのもよかった。フェスもいいけど、まぁ大人なんでこういうところでのんびりライブを見るのがいいなぁ。

「やきもの随筆」-加藤唐九郎-

◆鎌倉で飲んで帰る

前々から陶器とか磁器、工芸品などについて知りたいと思ってるのだけれど、どうしたものか、とまったくわからないままになってしまってます。実際の物を見に行ったり集めたりしないとわかってこないんだろうと思う。
そんなわけで、おそらく、それほど陶磁器について詳しくない初心者向けに書かれたと思われるこの本も、イメージがわかないところも多く、読むのに時間がかかってしまいました。とりあえずはこういう本を読みつつ機会があれば実物を見にいければ、という感じですかね。

専門性を別にすれば、中国のものが最上だった時代があったり、朝鮮のものの価値を重要視するようになったり、その後、日本で作られたものが再評価され、そこに日本の地方に争点を当てた(ちょっと違うか)民藝運動がおこったりと、読んでるとなんだかレコードコレクターみたいな話のようでもあり、いつの時代もあまり変わらないんだなぁとか思ったりしてしまいますね。

-さて、間があいてしまいましたが、横須賀、鎌倉散歩の続き。
今回の鎌倉散歩は、前日に飲みに行った時に「BRUTAS」を読んだせいで、夜の鎌倉で飲むというのがテーマでした。単に夏休み中なので、昼間にディモンシュでお茶したり、イワタでホットケーキを食べたりするのは無理だろうってこともあります。

夕方くらいに鎌倉に着いて、古本屋や雑貨屋、市場などをさっとまわって、夕方から友だちと合流。ちょっと遅れるというので、歩き疲れたし「BRUTAS」で岡本仁さんが紹介していたブルールームでサラダとフリッターをつまみに一人先に飲み始める。釜焼きのクラフトビールがいくつかあるこじんまりとしたいい感じのピッツァリア・ビアバーで、ピザもおいしそうでしたが、前日もビザを食べたこともあり、ベアードビールを2杯飲んでさくっと移動。

なんとなく海の近くで飲もうということになり、行く店も決めずに御成通りを海の方へ歩いていたらギターの音が通りまで聴こえてきて、そのまま立ち飲みのスペインバル、パンダバルに入る。入ってから壁のタイルを見て、ここも岡本仁さんが紹介していた店と気づく。う~ん、なんなんだか。
でもギター一本で爪弾かれるボサノバやクラッシックの演奏が心地よく(フラメンコとかはほとんど演奏しなかった)、グリゼット(スペインバルだけどベルギービール)を飲んだりしながら、演奏が終わるまで飲んでしまったのだけれど、一日中歩いていたのでちょっと立ち飲みはつらかったです。
(すみません、演奏していた人が誰だったかは忘れました。帰り際にCDのチラシをもらってきたのですが、どこかで失くしてしまいました)

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その後、もう一軒入ろうと思ったのだけれど(できれば岡本仁さんが紹介してないところ)、鎌倉の夜は意外と早くて、なかなか手頃なところが見つからず無駄に歩き回った挙句、市場のラーメン屋で締めて終了。鎌倉を出たのは10時くらい。家に着いたのは12時過ぎでした。
いやーよく歩きました!そして一日が長かった。出かける前、7時半くらいに投票に行ったことなんてすごい前のことのようでした。

「その他大勢」-小堀杏奴-

◆横須賀美術館再訪、海辺の散歩

最近(と言っても去年のことか?)森茉莉の本を読む機会が多かったのですが、久しぶりに小堀杏奴の本を読んでみる。そして素直にやっぱり姉妹でも全然違うなぁ、と思う。まぁ当たり前ですけどね。
森茉莉のファンが読んだら「子どもの自慢話とか受験の話なんてどうでもいいんだよぉ~」と言いそうな内容でもある。正直わたしも読んでてそう思う時がありました。ただ森茉莉の文章はいい意味でも悪い意味でも偏ってるということは否定できないし、文章も万人向きとは言えないのも確かなので、森鴎外の娘としてこういう文章に対するニーズもあるんだろうな、という気もします。むしろ一般読者向けと言えるかも?。
ついでに森於菟の「父としての森鴎外」や「耄碌寸前」も読んでみたいけど、古本屋で見たことないですね。そもそも「大人の本棚」シリーズは一部を除いてなかなか古本屋で見かけないし、あったとしても元の値段が高いのでそれほど安くもなってない場合が多いんですけど。

先週からミオ犬たちが長崎に帰省しているので、ひさしぶりに一人の週末、横須賀→鎌倉めぐり。一人暮らしになると、いつも鎌倉に行ってる気がする。一人なんでちょっと遠出でも、なんて思うとなんとなく鎌倉あたりに行ってしまいます。別にどこでもいいんですけど、まったく知らないところにして、事前にいろいろ調べるのもまぁまぁめんどうなもんで‥‥(それが楽しいって時もあるけどね)

で、特に妖怪が見たかったわけでもないのにわざわざ横須賀美術館へ。現代の作家よりも浮世絵を中心にした昔の絵のほうが、物語性というか、絵の隙間や描かれている妖怪の背景が想像できる感じがよかったです。当時はかなりリアリティがある絵として受け入れられていたのかもしれませんが。それから、なぜか幽霊の絵になると掛軸に墨で描かれたものが多くなってしまうのは何でなんでしょうね。夏とかに床の間に飾ったりしたのだろうか。それはそれでめちゃくちゃ怖い気もするんですが‥‥

前にきた時は、屋台が出ていて、ちょっとしたものを食べたり、ビールを飲んだりできたのですが、今回はそれがなかったのが残念。あの時は芝生のところに大きなスクリーンが張ってあって夜、映画の上映をしていたりしたんだよなぁ~

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そんなわけでさくっと展示を見たあとは、観音崎灯台に登ってみたり、海辺を歩いてみたりして、美術館の周りを散歩。なんか前日に伊千兵衛でやっていたart of noise にいたわりと美術系の人たちとはまったく違う感じの人たちがバーベキューをしていて、遠くにきた感じを実感しました。
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その後は鎌倉に移動、つづきは次回?

「忘れえぬ人」-山口瞳-

◆ユーロスペースで4年半ぶりに映画「TRAIL」を見ました。鳥取に行きたい~!

黒尾重明、鳥井信治郎、梶山季之、柳原良平、関保寿、中原誠、向田邦子、色川武大、井伏鱒二‥‥などについてつづった文章をまとめた本。途中、ニュースになった人の話が出てきたりするのがちょっと唐突。収録する文章が足りなかったのだろうか?

ギャラリーセプチマの波田野くんが監督した映画「TRAIL」をユーロスペースで見る。去年、達郎のライブと調布でやっていたキンダーフィルムフェスティバルに行ったけれど、ちゃんとした映画を見るのは漣くんが生まれて初めて。4年半ぶりくらい。
あまりにも久しぶりなんで上映中ずっと集中できるのかなとか、いきなり小難しい内容だったどうしよう、ついていけるのだろうか?なんて実をいうとかなり不安だったのですが、実際は頭を空っぽにして100分間映画の世界に引き込まれっぱなしでした。鳥取の自然とちょっとノスタルジックな街の風景がひたすら美しく、でもそれだけでなくて見る人に「!」や「?」を提示し、見る人、見る度に違う解釈せざる得ないというストーリーの共存がめちゃくちゃよかった。
光と影、生と死、現実と非現実、ギターの音の響きと役者たちの声の生々しさ、叙情的な風景と廃墟や見る人を一瞬不安にさせるような映像・・・など相反する要素があくまでも自然に一つの混じり合い境界線のない世界。
そしてストーリー展開に際しての伏線や暗示が、意図的に各所にちりばめられているので、一回見ただけだとその印象に引っ張られてしまったような気がしてしまってます。セプチマの受付でニコニコしながらビールを売っている波田野くんが実は詐欺師なんじゃないかと思ってしまったりして‥‥。

そんなわけで映画を見たあとで「あのシーンがよかった」とか「あれは私はこう思った」とかいろいろ話したりしてから、また見てみたら違う受け止め方ができて楽しいと思う。でもまぁここで独りよがりな解釈を語っても野暮というもの。というか人それぞれの思いを語り合うことが重要な気がしますしね。

あと見終わってからふと大林宣彦監督の尾道三部作や林海像の濱マイクシリーズを思い出しました。もちろん映画の内容も方法論も町へのアプローチも全然違くて、作品としてはむしろ似ているところはほとんどないんですけどね。

それにしても久しぶりに見る映画が「TRAIL」でよかった。映画館で映画を見てその世界に何時間か浸かるのは、いろいろな意味で気持ちもリセットできていい、ということを改めて思った次第。吉祥寺とかでまた上映されるといいなぁ~

「四角い卵」-永井龍男-

◆リッツパーティー@セプチマ

永井龍男は長編になると、短編にある緊張感のある引き締まった感じがなくなってしまって、残念な感じになってしまうのはなぜだろう。「皿皿皿と皿」は短い章をつなぐ形で成功していたので、この形でもう何冊か作品を書いて欲しかったと思う(もしかしたらあるのかもしれないが)。
わたしは小説に対して、別につじつまが合ってないとか、軸となるテーマがないとか、そういうことにはまったくこだわってないんですが、それでもちょっとどうかなって思うくらい。わたしの読み飛ばしてしまっただけなのかもしれませんが、そもそもタイトルがなんで「四角い卵」なのかもわかりませんでした。とはいうものの、まだまだ読んでいない長編が何冊もあるので、どこかで見つけたらまた読みますけどね。

でも年表を見るとこういった長編は、戦後、永井龍男が文藝春秋で仕事ができなくなって、作家として活動し始めた頃に多く発表されていて、その後だんだんと短編が主になっていくという感じなので、もしかしたらこの辺の作品は習作ぽいのかなんて気もします。もしくは生活のために量産しなくてはいけなくて、あまり熟考できてないままの作品とか。実際、戦後1949年に「ああ、この一球」を出した後、1950年代に22冊も本を出してるんですが、1960年代になると12冊、1970年代には13冊とかなり減ってます。単に年齢的なことなのかもしれませんが‥‥
そういう意味も含めてこの時期の作品を、永井龍男自身がどうとらえていたのかちょっと気になります。全集とかにもちゃんと収録されてるのでしょうか?

週末はセプチマでやっていたリッツパーティにいってきました。名前のとおりいろいろなものをのせてリッツを食べながら、ライブを楽しむというセプチマらしいイベント。ディップも定番のチーズ系からカレー風味なもの、アイスなど全部食べきれないくらいたくさん種類があっていちいち迷ってしまいました。うちはさくらんぼを持って行ったのですが、けっきょく漣くんと暁くんがパクパク食べてたという感じでした。

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ライブの方はFriendly Hearts of Japan、Miitsy、地底紳士、Yoshino momoko – Yamamoto sei、Miss Donut(a.k.a. Americo)、pagtas、フムフムといったラインナップ。行く前にまったくチェックしていなかったのだけれど、Momo-Seiはチロリアンテープやサニチャーのヨシノモモコとプレイメイツの山本聖の二人組だったんですね。
ギター2本と二人のーヴォーカルというシンプルだけどメロディとハーモニーが心地よい、なんていうのかな、すごく気分が高揚するとかじゃなくて、歩いてるうちに地面から10cm浮き上がるような気分になるようなウキウキ加減がよかったです。セプチマという会場自体の響き加減も二人の奏でる音楽にあっていたような気がしました。一番最初のライブというとこもあり、子供たちもリッツ片手に最前列で聴いてたので、ゆっくり聴けてよかったです。

でも、その後は中に入ってリッツを食べたと思ったらすぐに外に出て駆け回ったりして、それを追いかけるのに精一杯で、ライブどころではなかったのがちょっと残念。特にフムフムさんがライブで使用したシャボン玉マシーンを庭に出してくれてからは、それに夢中で、シャボン玉液がなくなるまで遊び倒してました。
あと、かなり山本聖さんに二人が絡んでて、勝手に名付けたパンチを浴びせたり、一方的にウルトラマンの話を話したりたくさん遊んでもらってしまいました。みなさん、ありがとうございました!山本聖さんは福生でいろいろイベントを行っているみたいなので機会があれば行きたいです。

このあともセプチマではFilFilaが出る「逆まわりの音楽」やQuinka with a Yawnが出る「すなななフェス」など気になるイベントがあるので(しかもその時期、ミオ犬たちが長崎に帰省するので一人なのだ!)、うまく都合をつけて遊びに行きたいと思ってます。

 →ギャラリーセプチマのサイトはこちら

「衣食住」-志賀直哉-

◆漠然と音楽を聴いたり本を読んでちゃダメなのよ

「すべての道は志賀直哉に通ず」と思ってしまうくらい、わたしが読んでいる本には志賀直哉が登場しているような気がするのだれど、志賀直哉自身の本は、「小僧の神様」「城の崎にて」などが収録されている短篇集と「暗夜行路」を中学の時に読んだくらいだったりする。話に出てくる度にちゃんと読みたいと思うんですけど、なんとなく後まわしみたいな感じになってしまってたんですよね。
そんなわけで実質、志賀直哉の一冊目は、衣食住に関連する随筆と短編を収録した三月書房の小型愛蔵本。タイトルは「衣食住」だけれど、「食」についての作品はあまりなく、「住」がわりと多めになってるかな。そのほかにも泉鏡花、菊池寛、太宰治、永井荷風といった作家について書かれたものも収録されています。
個人的には“木の葉が弱い風に揺られているの見ていたら強い風が来て葉の動きが止まった”という描写が出てきたのがちょっとうれしい(記憶で書いてるので実際の文章は違います)。これについては吉田健一が、“強い風が吹いてきて葉の動きが止まるなんておかしいじゃないか、これは作者の思い違いに過ぎない”、みたいなことをどこかに書いていたらしく、それに対して尾崎一雄が、“強い風が吹くことで片方に押しやられるので動きが止まるのだ、そんなことが分からない評論家なんてバカだ”といったことを書いてたのだ。まぁわたしは吉田健一も尾崎一雄も好きですけどね。しかし一冊目でこの文章に出会えるとは!(といいつつ付箋とかしてないのでどこだかわからなくなってしまってるんですけどね‥‥)

アトランティックの名盤が1000円で出ているのを機に、今年に入ってからわりと古いリズム&ブルースやソウルをよく聴いてます。60年代のソウルと言えばモータウンとかシカゴなどのノーザンソウルしか聴いてなかったので、何気に60年代のサザンソウルは始めて聴くものが多い。なんたってアレサ・フランクリンでさえカーティス・メイフィールドが関わったものしかきいてませんでしたから。歌のうまいヴォーカリストと、それを的確、かつ力強い演奏で支えるバックバンドというある意味シンプルな編成のものが多いのですが、ノーザンにしろあるいはソフトロックにしろ、どちらかというとヴォーカルもサウンドの一部で、バックの演奏(アレンジ)やコーラスも含めて一つの世界を作っているといったものを聴き続けてきたのでなんとなく新鮮。
しかし1000円シリーズを適当に聴き続けてるだけでも60年代ソウルの広さと深さに溺れそうになってしまいますね。ほんと「今年はソウルばかり聴いてます」なんて軽く言ってる場合ではなくて、「これから10年間ソウルばかり聴くつもりです」くらいの気合を入れないとダメなんでしょうねぇ‥‥

で、話が変わりますが、4月からネットラジオで、伊藤銀次の「ポップファイルリターンズ」という番組が始まりました。これは伊藤銀次がデビュー40周年を振り返り、その時々のターニングポイントになった自分の曲にまつわる話をするプログラム。福生時代のことから始まってようやく佐野元春や沢田研二と関わるようになった頃の話まできているのですが、けっこうおもしろくてカヌー犬ブックスの作業をしながらつい何回も聞いてしまってます。この辺の頃のミュージシャンの話はおもしろい。先日出た牧村憲一の「ニッポン・ポップス・クロニクル 1969-1989」も合わせて読みたくなりますね。
その中で大瀧詠一が伊藤銀次に「オールディーズを聴くんならただ漠然と聴いてちゃダメだ。銀次がビートルズやマージービートが好きならまずはそこを起点として、それらのバンドがカバーした曲のオリジナルから聴くとか、なにかしら系統立てて聴かないと、オールディーズの海で迷子になってしまうよ」みたいなことを言われたという話してて、どっきりした次第。

う~ん、アトランティックの1000円シリーズを適当に買うなんてCDの聴き方はダメですね。これに関わらずネットでいろいろ調べられるようになってから、聴き方が雑になってるような気がします。適当にそのジャンルのミュージシャンやアルバムを調べてリストにして、youtubeでちょっと聞いて買うかどうか決めるって感じですもん。
しかしだいたいのジャンルでディスクガイドとか出てるし、今どきプロデューサーやバックのミュージシャンとかを見てCD買ってる人なんてほとんどいないんだろうなぁ。そもそもCD買ってる人ももうそんなにいないんでしょうけど‥‥

「私の好きなもの 暮しのヒント101」-岡尾美代子、高橋みどり、東野翠れん、福田里香 ほか-

◆第三回東京蚤の市に出店しました。皆さまありがとうございました

週末は東京蚤の市に出店しました。出店するお店もだんだん多くなり、よい天気のもと、たくさんのお客さんで会場が賑わっていました。Good Food Marketも含めて京王閣のイベントへの出店も4回目目になりますが、いつも楽しい時間を過ごさせていただいてます。遊びに来ていただいた方々、そして手紙社をはじめとしたスタッフの方々、ありがとうございました。

「私の好きなもの 暮しのヒント101」は、ツイッターでちょっと話題になっていたので気にはなっていたものの、吉祥寺のリブロで立ち読みした感じではそれほどひかれず、買う気もなかったのですが、実際に読んで見たらおもしろくてちょっと得した気分。やっぱり気になったものはちゃんと読んで(見て、聴いて‥‥)みるべきですね。
紹介されているものや場所などもいいのですが、それぞれの文章がとても素敵な雰囲気を持っているので、ただの「もの紹介」の本になってないのがいい。なので、あえてここではどんなものが紹介されているかは書きません。本屋さんで実際に手にとってページをめくって欲しい。

わたしはやっぱりモノそのものよりもそれどうやって出会ったかとかそれと一緒にどう過ごしてるかと言ったことを読む方が好きですね。単に植草甚一の影響が大きいだけなのかもしれませんが。
わたし自身もモノそのよりも「これをどこで買ったとか、その時なにしてたとか、それを持ってどこに行ったとか」そういうことを思うことのほうが多いです。そう言った意味で前に東京蚤の市のサイトに紹介された時に書いたように、何年かしてから「これは東京蚤の市で買ったもので、誰と行ってベンチに座って何を食べて、友だちとどんなことを話して、どんなライブを見て‥‥」みたいなことを思い出してもらえたら、うれしい。
って書きながらそんな風に思い出すような本をわたしはお店に並べられてるかな、なんて思ったりして、ちょっと反省してます。次回、出店する時はそういう視点も加えて本を選んで持って行きたいです。

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ちなみに今回の蚤の市では、わたしはアンクルトリスの小さなグラスを買いました。昔、こういうノベルティの小さなグラスを集めようと思ったこともあって、西荻の古道具屋とかでいくつか買ったりしてました。でもここ数年はまったくチェックしてなかったこともあり、帰ってきて持っているグラスを見てみたら同じイラストのグラスを持っていてちょっとがっかり。まぁ色が違ったのが救いか。
ビールを飲むには小さいけれどワインを飲むにはまぁまぁいい感じの量なので、これを機にまた集めたいな、なんて思ってみるけれど、小物が並べられているような古道具屋なんて、漣くんや暁くんがいたら怖くてなかなかいけないな。