「居ごこちのよい旅」-文:松浦弥太郎、写真:若木信吾-

◆居ごこちのよい旅、居ごこちのよいカフェ
雑誌「coyote」での連載をまとめたもので、カリフォルニア、ハワイ、ニューヨーク、パリ、サンフランシスコ、マサチューセッツ、台湾、ロンドン‥‥など12の都市が、松浦弥太郎らしい視点で紹介されています。紹介されているお店や場所、出会う人々などをつづった文章ももちろんいいんですが、松浦弥太郎による文中に出てきたお店や施設を記した手描きの地図や若木信吾による写真も素敵です。特に若木信吾の写真は、文章との距離感がいい感じで、実は写真メインで、松浦弥太郎のほうが写真を説明していると言っても過言ではないかも?いや過言かな。実際は、旅の間ほとんどの時間をふたりで行動していたらしいのですが。

それにしても、このサンフランシスコの回の切り抜きを持ってサンフランシスコに行ったのは2008年の冬、もう4年も前のことになってしまうんですね。City Lightsで「On The Road」のペーパーバックを買ったり、ワシントンスクエアに行ったり、中華街を歩いたり、そしてもちろん古本屋やアンティークショッブ、蚤の市、マーケットなどまわって、ほんと短い旅行だったけれど、楽しかったな。そう、で、サンフランシスコから帰ってきたら、会社が買収されてしまって、その春から違う会社で働くことになったのでした‥‥。今にして思えば、あれがこの4年間の生活のスタイルの大きな変化の始まりだったのかもしれません。とかなんとか。しかし今度、海外に行くとしたら自分たちのパスポートも切れてしまってるし、家族4人分のパスポートを作らなくちゃいけなんですもんねぇ。それだけで大変な気がしてきました。

最近は、漣くんと出かけるたびにカフェめぐりみたいなことになってます。まあ子どもと一緒ならサイゼリアとかでもいいし、そういうお店のほうが子ども向けのメニューもいっぱいあるんですけどね。でも出かけると言っても、バスや電車に乗れて、デパートの中を歩き回らせたり、ちょっとおもちゃ売り場やキッズコーナーで遊んだりして、帰りにおやつを買って帰ってくるだけなので、なんとなくそれだと物足りなくて、お昼ごはんくらいは、って気分になってしまうんですよ。

そんなわけで1月に行ったカフェ、4軒。

■DADA CAFE
-代々木にある古い一軒家をそのまま利用したカフェ。前に行ったのがいつだったのか思い出せないけれど、プチグラのセールに行った帰りに寄ったのを覚えてます。ごはんを食べてたら偶然に友だちと会ったんですよね。
その時にソファー席があったという記憶があったのと、下北にある同じように古い家を使ったmois cafeに行ったことがあったので、ホンマタカシの写真展の帰りに寄ってみました。でもタイミングが悪かったのか、女のひと一人というお客さんが多く、静かにご飯を食べているという雰囲気で、すぐに大きな声をあげる漣くんを連れていくにはちょっと無理があったようです。注文したタンドリーチキンの入ったカレーも大人にはおいしかったけれど、子どもには辛かったようで、ことあるごとに「カレーからかったねえ」って言われる始末でした。

■キィニョンカフェ
国分寺にあるパン屋さんのカフェ。マルイにもお店が入っているので、これまではたいていこちらでパンやドーナツツを買って帰って家で食べてました。カフェのほうはパン屋に併設されている感じなので、それほど広くはないのですが、店内はかわいいキャラクターの絵がいろいろなところに書いてあったり、絵本やオモチャが置いてあってかなりかわいいお店です。もちろんパンもおいしいです。ここでしか売っていないパンもありますしね。
ここでパンを食べて駅までのあいだにある絵本屋さんおばあさんの知恵袋に寄って帰るのがおすすめ。

■バーニーズカフェ
国分寺の南口から5、6分歩いたところにあるカフェ。どことなく倉庫っぼい店内に、イームズのイスが置いてあり、アメリカの雑貨が飾ってあり、「リラックス」や「スタジオヴォイス」などの雑誌や絵本が置いてあり、そしてファイヤーキングのカップでコーヒーが出てくる‥‥という特徴をあげていくだけで、雰囲気は伝わると思います。まぁ好きな人は好きってことで。
食べたのがチャーハンだったこともあって、料理についてはあんまり言えませんが、居心地はとてもいいです。お店の人もやさしいし雰囲気的にも子どもを連れて行っても楽しめます。置いてある雑貨とかに手を出したりするのでちょっとヒヤヒヤしますが‥‥。でもほんとは夜に自転車とかで来て電車を気にせずに飲んだりしたいお店です。

■ハティフナット
-こちらもキィニョンに負けないくらいファンシーなカフェ。高円寺のほうには行ったことがあったけれど吉祥寺のほうに初めて行ってみました。つうか、漣くんがいなきゃこんなカフェ行げませんって。
いくつか席の種類はあるようですが、靴を脱いであがるフローリングの上に、小さめのテーブルと座椅子が置いてある形だったので、長居するとおしりが痛くなりますが、かなりくつろげます。高円寺よりもちょっと広いのかな?壁中に女の子や動物などの絵が描いてあるので、子どもも指をさしたりて「ぞうさん」とか「たこ」とか「きのこ」とか言いながら楽しんでました(席に区切りがない分、動き回ると隣の人にちょっと迷惑)。
食べものもドリアやカレー、クロックムッシュなど、わりと子ども向けですし、食べなかったけれどケーキもかわいいものが多かったです。

「私の写真作法」-植田正治-

◆植田正治が生きてたらデジタルカメラについてなんて書くのだろう
植田正治が、1974年から1985年の間に写真雑誌などに発表した文章を、金子隆一が再構成した本。植田正治がこれまでに使ったカメラについてや撮影や月例、展覧会といった自身の体験談からオリジナルプリントや現像・引き伸ばしなど専門的なものまで、基本的には思いつくままの内容がつづられているのだと思う。でも写真雑誌に連載されていたものだけあって、読者であるアマチュア写真家を叱咤激励するような文章があったりして、意外と熱い。いやかなり熱い。各章の最後に金子隆一によって付記されているその文章と植田正治の作品の関わりやその文章が書かれた時代背景も、知識を補完する意味で興味深かったです。
そういえば最近モノクロフィルムをカメラに入れてないな。漣くんが動き回るようになってからあまり使わなくなってしまったオリンパスOM1にモノクロフィルムを入れてみますかね。

しかしコダックが経営破綻したのでフィルムは富士フィルムが頼みの綱になってしまった感じですね。わたしとしては子どもの写真を頻繁に撮ったりするのって小学校くらいまでと思っているので、あと10年くらいはちゃんとした形でフィルムが残ってほしいけれど、どうだろう?どちらかというとフィルムの維持よりも現像すお店・ラボの維持のほうが難しい気がします。デジタルでもプリントはし続けるかもしれないけど、現像はないですもんね。う~ん。

ポラロイド社が破たんしてからインポッシブルプロジェクトでフィルム開発・発売の様子を見ていると、会社がなくなるとその技術が受け継がれないまま会社だけでなくその技術も消えてしまうことがあるのだな、と思う。インポッシブルプロジェクトで工場や機械類をリースして元ポラロイドの熟練工と言われる人があらたにフィルムの開発をしているけれど、実際に発表される商品は、悪いけれど今のところポラロイドから出てたものにおよばない、と思う。
今後、どんな風にして使う人が満足するような製品になっていくのか分からないけれど、たぶん、それはこれまでポラロイドから出ていた製品とは違ったものになっていくだろう。逆に万が一、ポラロイドからフィルムを出そうとしてももう生産できるはずもないですよね。
もちろん、インスタントカメラは富士フィルムからも出ているし、デジカメが主流の今、ポラロイドフィルムの技術なんて、時代遅れの技術で気にしてる人も多くないのかもしれない。でもこれって単なるポラロイドフィルムユーザーのノスタルジー以上の意味合いがあるんじゃないかと思ってしまいます。

昔はフィルムさえ残ってれば大丈夫って考えてたものだけれど(何が大丈夫なのか?って気もするが)、もしかしたら50年後には、フォルムを持っててもフィルムをプリントする技術がなくなってしまってて、どうすることもできなくなっているのかもしれません。(まあ少なくともスキャンはできるだろうからそんなことはないのかな?)

「その森の子供」-ホンマタカシ-

◆ホンマタカシ写真展『その森の子供 mushrooms from the forest 2012.
代々木のBlind Galleryでやっている「その森の子供」というホンマタカシの写真展に行ってきました。
震災と原発事故で放射性物質が降り注いだため、一部の地域できのこの採取が禁止された東北の森。この展覧会では、その森に震災後数度に渡って入り撮影した森とその“子供”であるきのこの写真が展示されています。
白をバックに図鑑の写真のように撮られたきのこの写真と、その間にそのきのこが育った森の写真が展示されているという構成になっていて、森ときのこを切り離して写真の中に収めることで、きのこの質感がダイレクトに伝わってくるとともに、かつ森との関係性もきちんと提示されているという感じです。「ニュードキュメンタリー」の時も思ったけれど、ホンマタカシは写真の見せ方がホントうまい。

-ついでに会場となっているBlind Galleryがそれほど広くないスペースということもあり、展示されている写真は20点余りなのですが、この写真集には150点近くの写真が収録されているということで写真集も購入。
これも展示では点数は少ないけれどきのこの質感や色合いがダイレクトに伝わってくるプリントの精密さ力強さを感じましたが、写真集のほうは、そのたたみかけてくるようなきのこと森の写真の量にまず圧倒されるという、同じ写真のはずなのに受け取るものはかなり違うものになっています。

Blind Galleryは、昨年オープンした代々木ヴィレッジという複合施設の中の一つで、このほかにもレストランやバー、コーヒーショッブ、パン屋、本屋などがあり、庭園には世界の植物が植えられていたりします。施設内にはテーブルやいすが置いてあり、庭園の植物を見ながら、パンを食べたりコーヒーを飲んだりできるようになっているのですが、今の時期だとちょっとつらかったです。もう少し暖かくなった頃にまたおもしろそうな展覧会があったら行ってみたいかも。

-あーでもそんなに長い時間楽しめるという場所でもないし、代々木だし、施設のプロデューサーは小林武史だったり、なぜか大沢伸一とかも絡んでいたりで、まあ微妙に不思議な場所なのでどうかなーという気も。

 ホンマタカシ『その森の子供 mushrooms from the forest 2012.
  2012.12月17日(土)~2012年1月29日(日)
  会場:東京都 代々木 blind gallery
  時間:11:00~20:00
  料金:無料

「写真の秘密」-ロジェ・グルニエ-

◆一番初めにさわったカメラ
小さい頃、父親の眼鏡屋の一角に写真スタジオがあったということから始まり、ローライフレックスライカ、オリンパスなど愛用のカメラで、10代の頃から、戦時中、記者時代、作家になってから、と生涯を通じてスナップショットを撮り続けてきたグルニエが、自身と写真、カメラについてつづったエッセイ集。
自身の写真論を展開するというよりも、思い出やエピソードを2、3ページの短めな分量で書いてるものがほとんどだし、内容も学生の頃に友だちのお母さんのヌード写真をプリントするといった軽いものから、1944年のパリ蜂起のときに隠し撮りをしていてドイツ兵に射殺されそうになるといった興味深いものまで幅広く取り上げられているので読みやすいです。
こういうテーマが決まってて各章が短めな軽いタッチのエッセイ集っていいね。フィリップ・ドレルムの「ビールの最初の一口とその他のささやかな楽しみ」とかさ。で、ほんとはこういう本は、毎日寝る前に一章ずつ読んでいく、ってのが正しい読み方って気がします。

子どもの頃、うちに壊れた二眼レフのカメラがあって、よく上からのぞいて遊んでいたのが、わたしのカメラに関する一番古い記憶。横浜にいるときなので小学校に上がる前の話。二眼レフは子どもでも簡単にのぞけるし、壊れているとはいえシャッターは切れたので、楽しくてよく持ち歩いてました。わたしがいまだに古いフィルムカメラを使うのは、その記憶があるからなのかもしれません。
しかしそのカメラがちゃんと動いているときに、父親がどんな写真をとっていたのかは聞いたことがないんですよね。後年、父親が結婚する前、まだ山登りをしていたときに撮ったモノクロ写真が、物置の奥からたくさん出てきたことがあって、一時期額に入れて飾ったりしていたけれど、さすがに昔の話とはいえ二眼レフを持って山に登っていたとは考えられないし‥‥。まだ写真が残っているとは思えないけれど、今度、二宮に帰ったときにでも聞いてみるかな。
それから今度中古カメラ屋さんに行ったら、ジャンクだけど一応ファインダーがのぞける二眼レフのカメラを探してみようと思う。子どもたちのおもちゃになるかもしれないし、ならなかったとしても部屋に飾っておくだけでもいいしね。

「石子順造的世界 美術発・マンガ経由・キッチュ行」

◆年末年始はイコンタで撮った写真をA4サイズでプリントアウトして遊んでました。
月に数回は府中の森公園に遊びに行っているのだけれど、府中市美術館の展覧会は見れそうにないので、お正月明けに遊びに行ったついでにとりあえず図録だけ買っておいた。でも、まだぜんぜん読んでません。3か月くらいかけて適当なページを開いて少しずつ読んでいければいいかな、という感じだろうか。
適当なページを開いて少しずつ読むといえば、去年、年頭に小西康陽の「ぼくは散歩と雑学が好きだった。」を読んだせいで、植草甚一や小林信彦、筒井康隆、双葉十三郎、長谷川四郎といった晶文社のヴァラエティ・ブックや、安田謙一の「ピントがボケる音」、川勝正幸の「ポッブ中毒者の手記」といった今のヴァラエティ・ブックを読もうと思ったんだった。いや、すっかり忘れてたわ。あ、あと大友良英の「MUSICS」とかも読もうと思ってたなあ。ちょうど大友良英が井の頭公園でフリーライブをやった頃だ。

話は変わりますが、年末に新しいプリンタを買ったので、年末年始はイコンタで撮った写真を高解像度でスキャンしてA4サイズでプリントアウトして遊んでました。ほんとはちゃんとフィルムからスキャンしたかったのですが、今、フィルムスキャンできる複合機ってあんまりないんですよね。というか、会社の20代の男の子に「フィルムスキャンできる複合機が欲しいんだけど何がいい?」って聞いてみたら「フィルムスキャンってなんですか?」って言われちゃいましたよ。とほほ。

でもまあ別に個展とか開くわけではないし、それなりにきれいだし、今回は漣くんの写真ばっかだったし、かなり満足です。次は子どものじゃない写真をスキャンしよう。あー個展とか開く気はないですけど、お店とかで飾りたいとか、一緒にグループ店開きたいなどという奇特な方がおられましたら気軽にご連絡いただけれぱと思います(笑)。

 こんな感じの写真です。→Canoe_Ken’s photostream

今まででイコンタで撮った漣くんの写真で気に入っているのはこの4枚かな。

-

「Talking About」-n100-

◆今年もよろしくお願いします。
2012年、年が明けてからもう1週間も過ぎていますが、明けましておめでとうございます。今年もカヌー犬ブックスをよろしくお願いいたします。
今年初めての雑記は、n100というアバレルブランドから新しく出た雑誌。元クウネル編集長の岡戸絹枝が編集&ライターを担当し、スタイリストの吉場幸江、伊藤まさこ、マガジンハウスの木滑良久、作家の石田千、元オリーブ編集長で現在はフラダンサーの遠山こずえといった人たちがおしゃれについて語っています。が、一番「おお!」と思ったのは石田千の写真のバックにあった山口瞳の書だったりして‥‥。

吉祥寺の百年とかに行くと 「マーマーマガジン」とか雑誌とミニコミ・リトルブレスの間くらいに位置するような雑誌がたくさんあっていいなあと思うのですが、だいたい女性向きなので買うことはほとんどない。こういう本で男性向きのものというとビームスから出ている「ln The City」くらいしか思い浮かばないけれど、どうなんでしょう?男性向けのミニコミってなんとなく専門誌的なものになってしまうというイメージはあります。年末に取り上げた「BOOKISH」とかね。「ln The City」は、片岡義男とか小西康陽、中原昌也‥‥など、執筆者もいいしおもしろそうではなるんだけど、ビームスってのがね、という気持ちもあり迷ってるうちに、気がついたら4号まで出ていて余計買いにくくなってしまった感じです(笑)。

あーそんなこと書いてるうちに久しぶりに「finger poppin」とか「Summer Store」とか「Grass Roots」とかを読みたくなって真夜中に本棚や積み上げられた箱の中を捜しててしまってる2012年の年の初めでした。