「『洋酒天国』とその時代」-小玉武-

◆烏山第一住宅に行ってきました
文庫が出たことを知ったとき、山口瞳の命日が近づいたら読もうと思ったのだけれど、すっかり忘れてました。8月の終わりの頃、「命日の時になんか読もうと思ったんだけどなんだったけ?」なんてまぬけに思ってなんですよねえ。

サントリーの社長である佐治敬三をはじめ、開口健、山口瞳、柳原良平、坂根進、酒井睦雄といったスタッフ、そして「洋酒天国」への寄稿者たちについて、その時代背景を交えてつづられてるのだけれど、次々にいろいろな人が登場してきて、話のエピソードもちょっと盛りだくさんなので、もう少し絞ったほうがよかったんじゃないか、という気もしないでもない。でもスポットをあてる人や出来事を絞って小さくまとめるよりも、「洋酒天国」という小冊子を中心に、さまぎまな個性的な人たちがどんどんつながっていく様を描くことで、著者としては、「洋酒天国」そしてその時代への思いの強さを示したかったのかもしれません。
まぁ「その時代」って言ったって、誰もが実際にトリスパーに通ったり、「洋酒天国」を読んだりしていたわけではないだろうし、結局のところ 「時代」っていうよりも、サントリーにこんな個性的な人がいて「洋酒天国」を作ってたんだってことにつきるんじゃないかと。

さて今日は、市役所に申請を出しに行く必要があったので、午前休して府中周り新宿経由で会社に。前に引っ越しの時も思ったけれど、府中市役所って土日はほとんど業務を行ってないし、夜までやっている出張所もないのでちょっと不便。前に住んでいた杉並区は夜7時くらいまでやっている出張所がいくつもあったのにな~(それでも当時は7時までしかやってないの?みたいに思ってました)。

用事自体はすぐに終わったし、会社に行く時間まで少し時間があるし、せっかく午前半休したことだし、というわけで、千歳烏山で途中下車。前から行っておきたかった烏山第一住宅に行ってきました。転んでもただでは起きないタイプです。
ここは阿佐ヶ谷住宅を設計した前川國男氏が手掛けた団地で、阿佐ヶ谷住宅と同じように、当時としてはかなりモダンな低層のテラスハウスが立ち並んでいて、それが今ではレトロな雰囲気を醸し出しています。まあ団地というより集合住宅といったほう趣ですね。
ただ取り壊しがかなり進んでいて、五棟ぐらいしか残ってません。残っている棟も一つの棟に何世帯か入居できるタイプのもので、そのうちの1つに住んでいる人がいてほかの部屋は住んでおらず昔のままで半分朽ち果てようとしているものか、今でも人が住んでいる一世帯用の戸建でかなりの部分でリフォームなどが行われているもののどちらか、という感じでした。少なくとも3年くらい前に来たかったなー、なんて今ごろ言っても仕方ないですけど‥‥。
阿佐ヶ谷住宅と違って住んでいる人とのトラブルもあまりないみたいなので、2、3年後には全部が新しい建物になってるんでしょうね。

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モザイクタイルの棟名も阿佐ヶ谷住宅と同じ

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取り壊された建物の跡

それほど広い場所ではないのですが、ブラシコなど公園の跡もあり、建物がまだ現役で人が住んでいた頃は、阿佐ヶ谷住宅と同じように緑に囲まれたいい環境だったんだろう。わたしが行った時もお母さんの団体が小さな子どもを連れて遊びに来てました。車が入れないようになっているみたいだし、地面もちょうどいい程度に草が生えていて、子どもを遊ばせるにはちょうどいい感じです。
そういえばわたしも漣くんがまだ生まれて何か月かという時期に、阿佐ヶ谷住宅に行きましたね。あれからぜんぜん行ってないけれど、今はどんな感じになってしまってるかな。イベントとかもやってないみたいですしね。
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「その辺まで」-獅子文六-

◆「イケムラレイコ うつりゆくもの」と「宗廣コレクション 芹沢錐介展」
獅子文六のおもしろさの一つとして、長く海外生活を送っていたわりには、意外と日本的な考えが強かったり、ときに欧米の合理主義的な考えが前面に出てきたりするという、そのブレンド具合があげられると思う。そこは獅子文六が横浜出身で、小さなころから中国人をはじめとした外国人に囲まれて育ったからなんじゃないかと思ったりするけれど、特にほかの人で、海外生活が長かったせいで考え方が偏ったという具体的な例が浮かんでるわけでもないので、単なるイメージなのかもしれません。すみません。

さて三連休は、相変わらず展覧会三昧、今月末にはミオ犬と子どもたちが帰ってくるので、そろそろ打ち止めか、という感じですが、土曜日は東京国立近代美術館でやっていたイケムラレイコ、月曜は松涛美術館で芹沢硅介の作品を見てきました。

イケムラレイコはベルリンとケルンを拠点に作家として活動している現代美術家で、わたしは今回の展覧会で初めて知りました。暗闇(?)で横になっている女の子の絵がなんとなく奈良美智が描く子どもと似たような雰囲気で心に残って、展覧会が始まる前から気になっていたんですけど、会場の音楽を蓮沼執太が手掛けていたり、カタログやWebサイトでの写真を川内倫子が撮っていたりという情報を知るにつれてもう行くしかないという気持ちに‥‥。

で、実際に作品を見てみると、似たような感情を作品から受ける瞬間もあるのですが、本質的には奈良美智とはぜんぜん違いました。まあそれは当然。いや、そもそも奈良美智の作品もちゃんと見ているわけではないんですけど。
そんな女の子の絵画やスカートを広げてうつぶせで寝そべって煩杖をつく少女たちの彫刻などももちろんよいのですが、私としては、どこか原始的な手触りと雰囲気を持ち合わせた彫刻の作品に心がひかれました。このひかれる感じはなんなんだろう、と考えてみてるんですが、ちょっとよくわかんないんですよね。
会場の構成はイケムラレイコのパートナーで、建築家のフィリップ・フォン・マットによるもの。奇をてらった感じはまったくないのですが、それぞれの展示が丁寧に考えられた構成になっていて、それが現在から過去の作品へとさかのぼっていって、最後にまた最近の作品が展示されているという構成になっています。最後の展示室に入った途端、なんとなくそれまでの作品たちがつながったような、全体で一つの輪になるような感じがして、また最初から作品を見たくなりました。

かわって、芹沢錐介は、8月に民藝館でやっていたのも見たので2回目になります。民藝館の展覧会では、柳悦孝の作品も展示されていたし(それはそれでよかったのですが)、民藝館ということで、(もちろん庶民がそれを使えるわけではないのですが)一般の人たちが普段の生活で使うものが中心に展示されていましたが、今回の展覧会では、暖簾、着物といった染物だけでなく、大きな屏風やお寺などから依頼されて制作したもの、また硝子絵や板絵、スケッチなど、芹沢錐介の作品を広くカバーできるようになっています。
それからこの間、濱田庄司の陶磁器を見たときもそう思ったけれど、展示されている作品がどうやって作られたのか、そこで駆使されている具体的な技法がもう少しわかると、より楽しめるんじゃないかと思ってしまいますね。絵心がないので、実際に陶磁器を作ったり染物を体験したりということは、多分できないだろうけれど、少なくてもその課程がイメージできるようにはなりたいです。芹沢硅介以外の染色作家や染織物作家の作品も見てみたいですし‥‥。

今はまだ興味を持ち始めたばかりなので、どうなるかわかりませんが、芹沢錐介や演田庄司を入り口に日本の伝統工芸について調べていって、いつかカヌー犬ブックスにもそういった本を並べられるようになれればいいかもね(それまでの道は険しそうだけど)。

「イケムラレイコ うつりゆくもの」
 会場:東京国立近代美術館
 会期:2011年8月23日(火)~10月23日(日)

「宗廣コレクション 芹沢錐介展」
 会場:渋谷区立松篇美術館
 会期:2011年10月4日(火)~11月20日(日)

「文士と骨董―やきもの随筆」-森孝一-

◆漣くんはすっかりお兄ちゃん気取り?
志賀直哉、藤枝静男、青柳瑞穂、岡部伊都子、小林秀雄、青山二郎、白洲正子、井伏鱒二といった文士による骨董、とくにやきものついての随筆を集めたアンソロジィ。

たいていの人が陶磁器は李朝のものを最高のものとしている半面、李朝を評価した柳宗悦の民藝運動については軽く批判しているというところがおもしろい。しかしそんな人でも、李朝の陶器について、柳宗悦が主張していた無作為なところをほめていたりして、柳宗悦の影響の大きさがうかがえます。

それから中国の陶器についての言及がまったくと言っていいほどないのも不思議。まぁ柳宗悦や青山二郎の本でも言及されることはほとんどないですけどね。やきものの評価としてはそういうものなのだろうか。なんとなくその頃の文士って中国に憧れをもってる人が多いので、その辺も含めて中国の陶器についてなにか語る人がいてもいいんじゃないかと思うんですけど、どうなのかな。単に編者の嗜好の問題なのかもしれませんが‥‥。

9月の終わりに二人目の子どもが生まれました。今回はミオ犬が実家の長崎に帰っての出産だったので、9月の後半から東京と長崎を行ったり来たり慌ただしかったです。まぁその前の7月後半からの2か月間はのんびりと独り暮らしをしていたので、そのしわ寄せ、とも言えますが。
ミオ犬と子どもたちが東京に帰って来るのはもうちょっと先になりますが、男の子二人兄弟になったのでこれからさらに騒がしくなりそう。

しかし生まれた子が漣くんそっくりなんですよ。生まれた時から髪がフサフサだったり、目や鼻、口など顔のパーツはもちろん、動きもなんだか漣くんを見ているようでおもしろい。病室では漣くんもうれしいのか、横に並んで寝転んだり、頭をなでたり、泣き出すと胸をたたいたり、ミルクをあげたり、すっかりお兄ちゃん気取り。まぁどこかで赤ちゃんがえりをするんだろうなぁと思うけれど、これからもずっと仲良くしてほしいですね。

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