「その辺まで」-獅子文六-

◆「イケムラレイコ うつりゆくもの」と「宗廣コレクション 芹沢錐介展」
獅子文六のおもしろさの一つとして、長く海外生活を送っていたわりには、意外と日本的な考えが強かったり、ときに欧米の合理主義的な考えが前面に出てきたりするという、そのブレンド具合があげられると思う。そこは獅子文六が横浜出身で、小さなころから中国人をはじめとした外国人に囲まれて育ったからなんじゃないかと思ったりするけれど、特にほかの人で、海外生活が長かったせいで考え方が偏ったという具体的な例が浮かんでるわけでもないので、単なるイメージなのかもしれません。すみません。

さて三連休は、相変わらず展覧会三昧、今月末にはミオ犬と子どもたちが帰ってくるので、そろそろ打ち止めか、という感じですが、土曜日は東京国立近代美術館でやっていたイケムラレイコ、月曜は松涛美術館で芹沢硅介の作品を見てきました。

イケムラレイコはベルリンとケルンを拠点に作家として活動している現代美術家で、わたしは今回の展覧会で初めて知りました。暗闇(?)で横になっている女の子の絵がなんとなく奈良美智が描く子どもと似たような雰囲気で心に残って、展覧会が始まる前から気になっていたんですけど、会場の音楽を蓮沼執太が手掛けていたり、カタログやWebサイトでの写真を川内倫子が撮っていたりという情報を知るにつれてもう行くしかないという気持ちに‥‥。

で、実際に作品を見てみると、似たような感情を作品から受ける瞬間もあるのですが、本質的には奈良美智とはぜんぜん違いました。まあそれは当然。いや、そもそも奈良美智の作品もちゃんと見ているわけではないんですけど。
そんな女の子の絵画やスカートを広げてうつぶせで寝そべって煩杖をつく少女たちの彫刻などももちろんよいのですが、私としては、どこか原始的な手触りと雰囲気を持ち合わせた彫刻の作品に心がひかれました。このひかれる感じはなんなんだろう、と考えてみてるんですが、ちょっとよくわかんないんですよね。
会場の構成はイケムラレイコのパートナーで、建築家のフィリップ・フォン・マットによるもの。奇をてらった感じはまったくないのですが、それぞれの展示が丁寧に考えられた構成になっていて、それが現在から過去の作品へとさかのぼっていって、最後にまた最近の作品が展示されているという構成になっています。最後の展示室に入った途端、なんとなくそれまでの作品たちがつながったような、全体で一つの輪になるような感じがして、また最初から作品を見たくなりました。

かわって、芹沢錐介は、8月に民藝館でやっていたのも見たので2回目になります。民藝館の展覧会では、柳悦孝の作品も展示されていたし(それはそれでよかったのですが)、民藝館ということで、(もちろん庶民がそれを使えるわけではないのですが)一般の人たちが普段の生活で使うものが中心に展示されていましたが、今回の展覧会では、暖簾、着物といった染物だけでなく、大きな屏風やお寺などから依頼されて制作したもの、また硝子絵や板絵、スケッチなど、芹沢錐介の作品を広くカバーできるようになっています。
それからこの間、濱田庄司の陶磁器を見たときもそう思ったけれど、展示されている作品がどうやって作られたのか、そこで駆使されている具体的な技法がもう少しわかると、より楽しめるんじゃないかと思ってしまいますね。絵心がないので、実際に陶磁器を作ったり染物を体験したりということは、多分できないだろうけれど、少なくてもその課程がイメージできるようにはなりたいです。芹沢硅介以外の染色作家や染織物作家の作品も見てみたいですし‥‥。

今はまだ興味を持ち始めたばかりなので、どうなるかわかりませんが、芹沢錐介や演田庄司を入り口に日本の伝統工芸について調べていって、いつかカヌー犬ブックスにもそういった本を並べられるようになれればいいかもね(それまでの道は険しそうだけど)。

「イケムラレイコ うつりゆくもの」
 会場:東京国立近代美術館
 会期:2011年8月23日(火)~10月23日(日)

「宗廣コレクション 芹沢錐介展」
 会場:渋谷区立松篇美術館
 会期:2011年10月4日(火)~11月20日(日)