「冬の本」-夏葉社-

-■青山南、天野祐吉、武田花、北澤夏音、高山なおみ、堀込高樹、小西康陽、山田太一、又吉直樹など82名による冬に読んだ本。冬になると思い出す本など、冬にまつわる話を集めたエッセイ集。見開き2ページずつで、執筆者が幅広く、収録順も五十音順になっているので、雑誌の小さなコーナーを読んでる感じでサクサク読めます。一冊の本としてもコンパクトにまとまっていると思う。でもあっという間に終わってしまうので、もう少し読み続けたいと思うものもあったり、1000文字ではどこかまとまりきれてなくて、もう少し文字数があったら面白くなったのにと思うものがあったりして、ちょっと物足りない部分もあるかな。
しかし「春の本」でも「夏の本」でも「秋の本」でもなく「冬の本」で、見開き2ページというのがいい。書かれている内容とは関係なく、その体裁だけで気持ちがピンとする気がします。

■去年はあまりギャラリーや美術館に行けなかったし、写真集などもほとんど買えなかったので、今年はできるだけ足を運びたいなと思って、金曜、定時にあがって恵比寿のpostでやっているホンマタカシの写真展に行ってみました(ほんとうは写真美術館でやっているユージン・スミスの写真展に行こうと思っていたのだけれど、時間的に無理だったのです)。
今回展示されているエド・ルシェへのオマージュシリーズは、エド・ルシェの写真の構図そのままに写真を撮るという試みとのこと。シリーズ自体は2014年にスタートし、すでに5回目になるそうです。今回は、アメリカのガススタンドを撮影した「TWENTYSIX GASOLINE STATIONS 」、タイプライターを車から投げ落とし、その破損状況を記録した「ROYAL ROAD TEST」、洋菓子とその重量を淡々と記録した「BABYCAKES」の3冊が刊行され、それらに収録された写真が展示されています。エド・ルシェの写真集も置いてあり、展示されている写真の元になった写真がどれなのか分かるので、エド・ルシェを知らなくても楽しめました。

■これってホンマタカシの「たのしい写真―よい子のための写真教室」に書かれていたことの実践になると思うのですが、本のほうもエド・ルシェの写真集と同じ綴じ方、装丁になっていたりして、どちらかというと見るというより、たとえ実際にやってる人たちのほうがおもしろがってるのではないんでしょうか。プロによる真剣な遊び、ですね。
ホンマタカシって「東京郊外 TOKYO SUBURBIA」のイメージが強いけど、波やきのこを被写体にしたり、まるで自分の子どもの記録のような写真なのに実は友人の子どもという、見る人を混乱させるような作品があったり、街の一角にあるホテルや高層建築物などの一室をピンホールカメラ化したり、カメラ、そして写真で遊んでて、イメージが固まらない。いや固まろうとするのを常に交わしていておもしろい。これほど活動内容が一貫していない写真家もめずらしいんじゃないかな。その辺で評価がかなり分かれそうだけど、わたしはけっこう好きです。

■ちなみに「冬の本」でホンマタカシが取り上げているのはマーリオ・リゴーニ・ステルンの「雷鳥の森」で、猟解禁前夜の猟師についてつづっている。ホンマカタシの写真を見ている人がこれを読んだら、あの写真や映像が頭に浮かんできますよね。