「山本さんのいいつけ」-山口瞳-

■タイトルとなっている「山本さんのいいつけ」の山本さんとは一度だけ会って話をしたという山本周五郎のこと。その時に「出版社を限定して書け」「その出版社からジャンジャン前借りしろ」「メモをとれ日記をつけよ」と言われたけれど、ほとんど実行しなかったということがつづられている。ほかに江分利満について若いサラリーマンと伊豆にいった話、将棋について、向田邦子のことなど、1963年から1990年までに発表されたものが収録されているが、テーマや流れなどはない。作家の死後に編さんされたこういう本は、音楽で言ったらシングルのB面やデモを集めたものと思ってるので、その辺はもうあまり気にしていないし、内容も大きな発見などがあるわけではない。だったらなんで読むかというとただ時々山口瞳の文章を読みたくなるというだけ。そしてなんとなく気持ちだけでも背筋を伸ばしたいという気持ちがあるからなんだと思う。

■ミッドタウンの富士フイルムスクエアで、塩谷定好の作品展をやっていて、朝、会社に行く途中でポスターを見るたびに行かなくちゃと思っていたのですが、気がつけば来週終了ということで、慌てて見てきました。塩谷定好は、大正から昭和初期に活躍した鳥取出身の写真家。同じ鳥取出身の写真家、植田正治も「塩谷さんといえば、私たちにとって、それは神様に近い存在であった」と生前語っていたらしい。
それほど多くの写真が展示されているわけではないけれど、山陰地方の風景をソフトフォーカスで撮った写真は、戦前の写真と言った雰囲気ではあるけれど、どの写真にも共通する独特な雰囲気があっておもしろかったです。
富士フイルムは、化粧品が主の商品になってもこういうとことで写真を紹介し続けているところがいい。ただ近所のカメラ屋さんは気がついたら写真関連の商品の棚が少なくなって、化粧品ばかりになってしまったけどね。

■ついでに、行けるかどうかわからないけれど気になっている展覧会を。まずは現代美術館でやっている「オスカー・ニーマイヤー展」。オスカー・ニューマイヤーは、ブラジリア建設時に、国民会議議事堂や外務省、大聖堂などの主要な建物設計を行っているブラジルの建築家。大胆な曲線が特徴なんですけど、実際に実物を見たら迫力あるんだろうな、と思う。展覧会はもちろん展示されているのは代表的な建築物の模型や写真、そして映像資料なんだろうけど、いつか実物を見に行きたい。いや、その前に現代美術館が微妙に遠いんですよね~

■毎月チェックしているわりにはなかなかいく機会がないギンザ・グラフィック・ギャラリーの8月の展覧会は、スイスを拠点に建築、デザイン、タイポグラフィー、アート、写真などの本を出版するバーデンの設立者であり、デザイナーでもあるラース・ミュラー。彼が手掛けた本が100冊展示されるというもので、印象的なタイプグラフィや幾何学的な線を効果的に配置したスイスのグラフィックデザインの伝統を受け継いだブックデザインはもちろん、その素材などにも凝っているいるらしいので、実物を見て確認したい。
ちなみにフォントのHelveticaはスイスのデザイナー、エドゥアルト・ホフマンとマクス・ミーディンガーによるものです。

■そのほか、5月から原美術館でやっている「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」展は8月30日まで。ここは久しぶりに併設のカフェでのんびりしたり、品川の周辺を散歩したりしたい。散歩と言えば、時間があれば根津にある弥生美術館で「森本美由紀展」もやってますね。あとはちょっと遠いけど千葉美術館の「ルーシー・リー展」やうらわ美術館の「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」も気になる‥‥
というわけで、多分、ほとんど見に行けないと思うけれど、今年の夏に気になる展覧会でした。