■前回の川本三郎の本で抹香町が出てきたのでなんとなく川崎長太郎の本を読んでみる。といっても、舞台となっているのは本に出てきた抹香町とはまた違う宮小路。私小説なので生家の海岸に近い物置小屋に住み、ちょっとお金が入ると宮小路に行き、そこでの芸妓とのやり取りが描写される。
ただこの作品が、ほかの川崎長太郎の作品と少し異なるのは、一人の芸妓を挟んで、小津安二郎をモデルとした映画監督との三角関係(?)の様子が川崎長太郎の目を通じて語られているところ。まぁ三角関係というか、小津安二郎が芸妓の気持ちを受け止めないことをいいことに、川崎長太郎が勝手に思いを寄せているだけのような気もしないでもない。小津安二郎をどことなく冷たい男として描いているのもフィルターがかかっているかなとも思うので、解説にあるように「川崎長太郎の一連の『小津もの』は、研究者にとって第一級の研究資料」と言ってしまうのはどうなのだろうか?
■3月になって余裕ができたこともあって、乃木坂にあるTOTOギャラリー・間でやっていた「TANGE BY TANGE 1949-1959/丹下健三が見た丹下健三」を見てきました。この展覧会では、1952年の「広島平和会館原爆記念陳列館」のプロジェクト開始から1958年の「香川県庁舎」完成までの10年間に手がけた建築について、それらの建物を丹下健三自らが撮影したコンタクトシートが展示されていました。わたしはあまり建築について詳しくはないので、建物をこういう構図で撮るのか、といった視点ぐらいでしか見れませんでしたが、詳しい人にとっては建築途中のものがあったり、赤線でトリミングの指示が引かれていたりしてもっと興味深く見れたのではと思います。
しかも70点以上のコンタクトシートが展示され、ギャラリー自体も2つのフロアに分かれていて、コンタクトシートの写真を一つ一つ見ていたら、かなり時間がかかってしまって、昼休みにちょっと見るという感じではなかったです。
■続けて、タカイシイギャラリーで5月2日までやっているやっているエルスケン写真展の「セーヌ左岸の恋」へ。タカイシイギャラリーはしょっちゅういている気がしますね。この展覧会では、、1956年に発表された写真集「セーヌ左岸の恋」からの作品15点が展示されています。正直に言って、写真集などでも見ているものが多いし、おっ!という驚きなどはないけれど、ちゃんとしたプリントで見るとコントラストがより際立って見えたり、いろいろ発見することがありますね。
■ところで、このエルスケンをはじめ、アジェ、ロベール・ドアノー、ブラッサイ、イジスなど、パリの街並みやそこで暮らす人びとを被写体にした写真家は多いけれど、ロンドンを同じような形で撮った写真家があまりいないのはなんででなんだろう、なんてことを、この写真展を見ながら思ってしまいました。パリに比べれば、ロンドンの街の被写体としての魅力は低いのかもしれないけれど、それでももっと撮っていてもいいのではないかと思う。
そもそもイギリス出身で有名な写真家もあまりいないですね。写真自体は60年代のファッション写真とか思い浮かぶけれど、写真家としてはあまりフォーカスされてないのが不思議。まぁ写真家だけでなく、画家とか映画監督も多くないような気がするので、お国柄なのだろうか、とかなんとか。