獅子文六が戦前から戦後にかけて、主にパリでの生活での出来事や出会った人について書きためたものをまとめた本。基本的には事実がもとになっていて、誇張はあってもウソはないと、あとがきに書いてありますが、戦前のパリの小さなコミュニティの中にこんな個性的な人がいたのか、と思うくらいおもしろいです。時期的にはヘミングウェイやピカソが活躍していた時代で、言うなれば、獅子文六版「移動祝祭日」なのだけれど、スケールの小さい中で、夢を描き、時に孤独な気持ちになり、日本に対しての愛憎を抱え、周りの日本人に対して虚勢を張り、それでも異国の開放感の中で楽しく過ごしている遠いアジアの国から来た異邦人たちの様子のおもしろさは、「移動祝祭日」に勝るとも劣らないと思います。
それから、そういう意味とは少し違いますが、ドイツに留学した友人との交流を軸に、ドイツ人の女性と結婚したその叔父と友人、そして友人の母、妹の運命を描いた「ドイツの執念」の、良質な短編小説のようなストーリー展開と構成がすばらしい。この題材だけで長編小説が書けるのではないだろうか。
今までも、例えば金子光晴の「ねむれ巴里」とか藤田嗣治の「腕一本・巴里の横顔」、山田稔や堀江敏幸の本‥‥など、パリの生活を描いた作品が好きでよく読んでいましたが、これからはもうちょっと意識してチェックしてみたいと、この本を読んでいて思いましたね。週末にでもさっそくリストを作ってみよう~っと。
話が変わりますが、相変わらずエレクトロニカ系のCDをよく聴いていて、最近は、sonigやKaraoke Kalk、raster-noton、Morr Music‥‥など、ドイツのエレクトロニカ系のレーベルをチェックしているのだけれど、先週末、ジャケットにひかれて、ついButcher The Barの「Sleep At Your Own Speed」を買ってしまったせいで、Sam Prekopの昔のアルバムをiPodに入れて聴き返してしまったり、The Sea And Cakeの新しいアルバムが欲しくなってしまったりしています。このあいだ、春が近づくこの季節になると、ソフトロックやギターポップが聴いている、なんてことを書いたのがいけなかったのか?自分で自分の暗示にかかってしまった感じになってしまってます。
ジャケットに貼ってあった紹介文にはフォークトロニカって書いてあったのですが、ぜんぜんエレクトトニックなところがないどころか、バックで弾いてるのバンジョーだよね、って感じなんですけど。いや、フォークトロニカというのはそういうもので、わたしの認識が間違ってただけですかねぇ~?う~ん、とにかくジャケットを含めて、Morr Musicはちょっと要注意。こういうのが好きなだけに、心が揺れてしまいますね。それでなくても自転車とか乗ってると、つい「ペパーミントブルー」とか「Velvet Motel」とかが頭に浮かんで来ちゃう季節なんだからさぁ‥‥。