「大いなる不満」-セス・フリード-

-■古代人のミイラに出会った科学者たちが、ミイラに影響され態度や行動が変わっていく様子を描いた作品をはじめ、死者続出するにもかかわらずなぜか毎年開催され、そしてなぜか多くの住民が参加するというピクニックについての作品など、不思議な設定の中で不可解、不条理、そしてどこかグロテスクな物語が展開されていく短編集。なんとなくミルハウザーに似ているかも?と思いながら読んでいたんだけど、最後に解説を読んだら、セス・フリードが同時代の作家で気になっている作家の一人にミルハウザーをあげていたので、納得。
比べちゃうとなんだけど、ミルハウザーのほうが緻密というか、物語全体に覆われる非現実的な空気の密度が濃い気がします。その分、セス・フリードのほうが、物語の世界にすっと入れる。物語の世界に入るというとちょっと違うニュアンスになってしまうかもしれませんが。ミルハウザーって読み始めるときに、大げさに言うと恐る恐る足を忍ばせながら入って、そこからどんどん引き込まれていく感じなんですよね。一方、セス・フリードのほうは、読み始めてすぐにその世界に入れるので、ミルハウザーと比べると読みやすい。まぁ単なる個人的な印象でしかないですし、読みやすいといっても、「去年、ピクニックの主催者たちは私たちを爆撃した。」という書き出しで始まる小説なので、好き嫌いは分かれるんだろうなとは思いますが。

■最近、フミヤマウチさんの渋谷系洋盤ディスクガイド100をなんとなくチェックしている。渋谷系っていうと一般的には1992年くらいから1996年くらいの感じなんだけど、取り上げられているディスクが、渋谷系と言われるミュージシャンのディスクではなく、「1987年から1995年にかけてリリースされた洋楽アルバムから『渋谷系』を象徴する100枚」という切り口で、マンチェスター関連からアシッドジャズ~トーキング・ラウド、ヒップポップ、ネオアコ~ギターポップ、シューゲイザー‥‥などといったディスクがピックアップされてて懐かしい。
今はもう手放してしまってるものも含めて聴いたことのあるディスクばかりで、当時はちゃんと新譜を追っかけていたんだなぁと思う。そしてわりといろいろなジャンルがある程度の範囲で流行っていたんだなとも思う。たぶん、今から20年後の2038年に、2007年から2015年にかけて流行ったディスク100(なに系なのかは知らん)とかセレクトしたとしても、そのときの40代の人たちにそれほど共感されないと思うんですよね。いや、単にわたしが今の音楽を知らないだけですね。
まぁ見ていて懐かしいですけど、わたしにとって1980年代終わりから1990年代初めって、大学にまったくなじめず友だちもほとんどいないという暗い時代だったので、その頃何したとかはもう思い出したくありません。

■ところで「渋谷系」って音楽だけじゃなく、ファッションや映画なども含めたブームだったってよく言われるけど、まぁいつの時代も音楽のムーブメントってファッションや映画を巻き込んでるんじゃないかな、と思うんですよ。でもたいだい文学ってほかのカルチャーとあんまりリンクしてなくってつまんない。
個人的には「渋谷系」文学ガイドを誰かに作って欲しいんですけど(自分で作るほどの知識はなし)、実際、渋谷系洋盤ディスクガイド100に取り上げられているような音楽を聴いているような人たちが、みんな読んでるような本ってなかったから、でっち上げになっちゃう。個人的には、ミルハウザーの「イン・ザ・ペニー・アーケード」とか入れたい気分ですが、誰も読んでないよね。むしろわたしの読んでない岡崎京子の本とかなんだろうな。小沢健二の先生は柴田元幸だったというのにね。