「釣人」-井伏鱒二-

■タイトルが「釣人」で表紙はカワセミ(この絵がいい)、ということで、釣りの話が中心にまとめられてますが、ほかにも中島健蔵の写真を解説した「風貌・姿勢」や交遊録的なものも収録されてます。まぁわたしにとってはそちらの方がおもしろいというのも事実。でも釣りに行く前の準備や川での様子など、わりと詳しく記載されていて、多分釣りが趣味の人だったらより楽しめるとは思いますが、それでなくても楽しく読めます。
多分それは、例えば、タイトルの「釣人」は、釣の師であり自らも釣文学の大家でもある佐藤垢石の思い出を、過去にもらった手紙を引用しつつつづったものなのですが、手紙を探す途中で、兄からもらった手紙を見つけてその内容についての話が出てきたり、東伊豆で太宰治と釣りをしに行った時の話が出てきたり、すぐに話が横道にそれます。その辺の横道にそれる塩梅が、釣りを知らない人にとっていいバランスになっているのではないかと。いや、適当。とは言え、バランスが狂うと単にまとまりがない、というだけになってしまうんですけどね。

■近所にある初めての床屋さんで髪を切ったらかなり短くなってしまってびっくり。散髪しているときはメガネをはずしているので、鏡に写っている自分の顔がほとんど見えてない。いや、切ってる時の感触で「うわっ、けっこう切ってるな」と思っていたけれど、切り始めると途中で言いにくい。だいたい「あ、そんな切らないでほしいんですけど」って言ったところですでに切ってしまってるので、そこに合わせてほかのところも短くするしかないじゃないですか。そういう場合でもなんとかしてくれるものなのかな。言ったことがないのでわからないけど。あと、床屋って完成形で「どうです?」って言うけど、あれはどうなのか。って、まぁあんまり気にしてない。短かかったら「今回はちょっと短いけどいいや」って思うし、ちょっと変だったら「今回はちょっと変だけどいいや」って思う。多分、床屋に来ている人のほとんどがそんな感じなんだろうね(わたしだけ?)。

■週末は府中の森公園、小金井公園と近所の公園ですます。小金井公園はちょっと遠い。3月にはけのおいしい朝市が江戸東京たてもの園で行われた時に出店した時以来。SL広場でちょっと遊んで、出茶屋さんコーヒー飲んで、また遊具で遊んでという感じ。江戸東京たてもの園では、ちょうどジブリの立体建造物展が始まったばかりのためか、いつもより入口にたくさん人がいたような気がしたけど、どうなのかな。8月2日、3日は、恒例の下町夕涼みがあるのだけれど、今年はいつもより人でいっぱいになりそう。ここで行われる盆踊りは、古い建物に囲まれたシチュエーションで、まさに昭和な雰囲気を味わえるのがいい。子どもたちがどう思っているのかはわかりませんが。

■最近、ちょっとぜんそくの発作で苦しい。家から駅までの坂道を自転車で走ったり、新宿駅で中央線から大江戸線に乗り換えるだけで、つらくなって途中で休みたくなるほど。久しぶりにぜんそくで病院に行って吸引器をもらってきました。いろいろ生活習慣を整えなくては。

-■【今日の一枚】「SARAVA」-CARLOS LYRA-
カルロス・リラを初めて聴いたのは、1994年の夏、レディメイドの“未来の音楽シリーズ”として再発されたポール・ウィンターと共演した「ザ・サウンド・オブ・イパネマ」。その夏はハワイに遊びに行っていた友だちのアパートの換気を頼まれて、エアコンもない6畳の部屋に時々行って窓を開けて風を通したりしてました。新宿のレコファンでこのアルバムを買って行って、その部屋に入ってすぐにCDプレーヤーにのせたときの、締め切ったむっとした暑さと窓から入る風の心地よさを思い出します。1994年の夏は暑かったんだよねぇ。
さて、このアルバムはカルロス・リラが軍事独裁政権から逃れるためブラジルを離れ、メキシコに滞在していた時に録音されたもの。カルロス・リラのアルバムは当たりはずれがなくて、基本的には、ボサノヴァから逸脱しない適度にポップなメロディとサウンドをやわらかい声で歌っているものがほとんどで、その辺が批判の対象になったり、物足りなさになってしまったりするのでしょうが、わたしはそのスタンスを変えないところがけっこう好きだったりします。
このアルバムは、ゆったりとギターと歌を聴かせるというよりも、ヴィオラォン、ハモンド・オルガン、ストリングス、ブラスなどがヴォーカルを引き立てるようにバランスよく配置されていて聴きやすいんじゃないかと思います。

「あさめし・ひるめし・ばんめし」-大河内昭爾 選-

■芥川龍之介、草野心平、水上勉、安藤鶴夫、吉村昭、色川武大、向田邦子、瀬戸内晴美、種村孝弘‥‥といった作家の食に関する随筆を収録したアンソロジー。編者の大河内昭爾は「味覚の日本地図」や「味覚の文学散歩」「粗食派の饗宴」といった食に関する本を多数出している評論家。サブタイトルが「アンチ・グルメ読本」となっているので、1980年代後半に福武文庫から出ていた本だと思う。これは読んだことがなかったけれど、1980年から1990年初めのころの福武書店はいい本出していて、好きだったんですけどね。海外文学もおもしろい本をたくさん出してました。バルガス=リョサ、ミルハウザー、ニール・ジョーダン、ジム・ダッジ、エリクソン、ジョン・クロウリー‥‥などあげればきりがないほど。それが今ではしまじろうだもんねぁ~
で、この本ですが、今読むとわりと手堅いラインナップになってます。吉田健一、子母澤寛、小島政二郎、永井龍男、池田弥三郎など自分にとっておなじみの作家の随筆はほぼ読んだことがあるような気がするしね。でも当時はたとえば吉田健一の随筆とかどういう感じで受け入れられていたんだろう。わたし自身はまだ10代だったし、翻訳文学にどっぷりつかっていた時だったし、よくわかりません。定番な作家を集めた感じだったのか、逆にマニアックな路線で組まれたものだったのかちょっと気になります。

-■先週の日曜はは渡邉知樹くんの個展「水のことだけ考えていた」を見ににじ画廊へ。抽象的な水彩画(?)や鳥オブジェが展示されていていたのですが、知樹くんの絵は抽象画といってもきれいで光があふれるような絵で、外に開かれているところが好き。なんかリビングに飾ってあったら、毎日がちょっと明るくなりそう。
鳥のオブジェのほうは、個展に行くたびに一つずつ買っていて、4つ目になりました。前回の時に漣くんに選ばせたら、それがうれしかったらしく、今回もにじ画廊に着く前からどんな鳥があるのか楽しみにしてました。今回選んだのは青い鳥。帰ってきて「これがおとうさん、これがおかあさん、これがおねえさん、で、きょうかったのが弟」と説明していましたが、多分、後付け。

-■【今日の一枚】「vox populi」-vox populi-
セルジオ・メンデスを起点するようなブラジル音楽に欧米のロックやポップスを取り入れた感じのサウンド。端的にいうといろいろなところで書かれているようにブラジリアンソフトロックってことになるのかな?そもそもソフトロックって(特にA&Mサウンド)欧米のポップスにボサノヴァの洗練さを取り入れたという要素が大きい気がするので、なんとなくブラジリアンソフトロックって言葉は自分の中ではしっくりときませんが。
ポップな楽曲に男性7人+女性からなる厚いコーラスがたたみかけてくるサウンドはわたしにとってはど真ん中。バックの演奏もアタックの強いリズムセクションに跳ねるようなピアノを基本にがっちりささえていて、歌がなくてもジャズボサ、ジャズサンバとして成り立つんじゃないだろうか?
と思って調べてみたら、ボサリオのメンバーだったフェルナンド・レポラーセ、ミナスの名門音楽一家に生まれ、グルーポマニフェストに参加するアマウリー・トリスタォン、テンポトリオに参加するエウヴィウス・ヴィレーナ、のちにセルジオ・メンデス&ブラジル77やシカゴで活躍することになるロウディ・デ・オリヴェイラといったミュージシャンが在籍していたらしいです。

■あと、これも先週のことになってしまいますが、6月の泥酔ファンクラブはヘヴンのメキシコさんを迎えての「パパパソング&ハンドクラップソング」特集でした。次々とかかるパパパソングを聴きながら、普段、さらっと聞き逃してしまっている曲に「パパパ」が入ってることに気が付かされたり楽しかったです。
もともと「パパパソング」って言い方がもともとギターポップのイベントで使われたものだったり、メキシコさんがゲストで回していたので、ついそっち方面の曲ばかり気にしてしまってましたが、ふと思えば、ブラジル音楽やジャズヴォーカルってスキャットが入ってる曲が多いし、パパパソングっていっぱいありそう。もちろんこのvox populiにもパパパあり。