■永井龍男が、横光賞を受賞した時のことや柳田国男のこと、早稲田界隈のこと、広島旅行のことなど特にテーマもない随筆集。タイトルとなっている「在所言葉」は、生まれ故郷の福山市の方言についてつづったもので、しゃべることばをそのまま文章にすることで、方言のコミカルな部分やリズミカルな部分をうまく引き出している。
また将棋の観戦記「将棋早指王位決定戦」では棋譜が記載されおり、あとがきでは「かねがね採譜の図を入れた随筆集を出したいと思っていた」と書かれているのだけど、採譜を収録した随筆というのは、わりと多いんでしょうか?単純なわたしは山口瞳の「血涙十番勝負」を思い出したりしました。まぁ山口瞳のほうは観戦記じゃないですけど。
というわけで、テーマもない随筆集と書いたけれど、内容的にはいろいろな趣向が施されていて読んでいて飽きない。
■最近はあんまり新譜も買ってなくて、欲しいと思っているCDが何枚もたまっている状態なのだけれど、年明けにタワーレコードのポイントが失効するということで、METAFIVEの「META」と蓮沼執太の「メロディーズ」を買って、通勤時間はそればかり聴いている。
METAFIVEは、高橋幸宏を中心に小山田圭吾、砂原良徳、テイ・トウワ、ゴンドウトモヒコ、LEO今井の6人で結成されたバンド。CDを買う前にYouTubeで「Don’t Move」を聴いたのですが、この6人から想像できるサウンドではぜんぜんなくて、びっくりした。
砂原良徳、テイ・トウワというメンバーがいるだけに、基本はテクノ(ポップ)なのだけれど、全体的にはファンク。こういっちゃなんですけど、細野晴臣の「S.F.X」やFriends of Earthを2016年版にパワーアップした感じもありつつ、密室的なところはなくより開放的にバンドのサウンドとして消化している。
一応、一人2曲ずつ作曲しているのだけれど、誰が作ったのかほとんどわからないところもいい。「Luv You Tokio」なんててっきり幸宏の曲かと思っちゃいました。そんなわけで、たぶんこれは各メンバーが好きな人が聴くとちょっとがっかりするのかもしれないとも思ったりします。逆にソロではできないことをこのバンドでやっているとも言えるわけで、そこを引き出す高橋幸宏の手腕は、前のバンド(?)Pupaよりも徹底していてスリリングです。
この後、各メンバーがソロを出した後くらいに、またアルバムを作ってくれないかなと思う。いや、そんなこと言っていたらいつになるのやらわからないですね(特に小山田圭吾、砂原良徳)。
■蓮沼執太の「メロディーズ」は、全曲蓮沼執太のヴォーカルを前面に出したアルバム。わたしは、「POP OOGA」で蓮沼執太を知って、「HOORAY」「OK Bamboo」「Shuta Hasunuma」と遡っていったクチなのですが、その後、バンド編成の蓮沼執太チーム、それを拡大した蓮沼執太フィルを経て、こんなさわやかなヴォーカルアルバムにたどり着くなんて思ってもいなかったです。
いや、子どもの頃にピアノとか習っていたんだろうけど、大学では環境学を専攻したことで、環境音をレコーディングするようになり、それがきっかけでフィールド・レコーディングやプログラミングを始めた到達点の1つがこのアルバムだと思うとほんとすごい。
個性の強いわけではないさりげない雰囲気のヴォーカルを引き立てるアレンジが心地よいのですが、ところどころで初期の電子音楽~エレクトニカを想起させる音があったり、チームやフィルのときの音を思わせたり、今までの実験的な部分をうまく歌を中心にしたポップスに昇華させているところは、なんとなくこれは蓮沼執太にとっての大瀧詠一の「ロング・バケーション」か?とか思ったり。なんて書くとおじさんの戯れ言みたいになってしまいますね。