「僕とライカ」-木村伊兵衛-

◆「窓に明りがともる。」川上尚見・小西康陽・真舘嘉浩 三人展
自身の写真についての解説から、人物写真、歌舞伎の舞台写真、東北での撮影など、写真を撮る時の姿勢や技術について、初めてカメラを手に入れた時のエピソードから始まる自伝、ライカについて、ブレッソンやドアノー、中山岩太といった写真家のボルトレ、土門拳、徳川無声との対談‥‥など、木村伊兵衛の随筆を幅広く収録した本。
随筆だけではなく最初のほうに木村伊兵衛の作品が収録されているところがいい。もともと知っていた写真だとしても、あらためて解説付きで作品を見ておくことで随筆の内容がより楽しめます。

個人的に気になったのは、ドアノーがパリの人々に愛されてて、どんな狭い裏道でも車で入って行って撮影しても全然文句を言われたりしないくてむしろ歓迎されていたというエピソード。木村伊兵衛の文章を読んでいるだけで撮影の雰囲気が伝わってきて、今まで、ドアノーの写真ってなんかわざとらしくてあんまり好きになれなかったんですけど、ちょっと見方が変わりました。
しかしできることならば木村伊兵衛にその風景の写真を撮って欲しかった~!って木村伊兵衛に関係ないエピソードですみませんっ~。

そんなわけでどうしようか迷っていたドアノーの「不完全なレンズで-回想と肖像」も写真関連の本で読んでみようと思っている本のリストに追加。そういえばこの本が出たときに六本木の青山ブックセンターでで行われた堀江敏幸のトークショウを聞きに行ったっけ。

-前回、はけのおいしい朝市のことを書いてしまったので、話が前後してしまいますが、金曜日は年度末ということもあり6時に会社をあがって、小西康陽と写真家の川上尚見、デザイナーの真舘嘉浩の3人による「窓に明りがともる。」という作品展を見てきました。
小西康陽以外の川上尚見、真舘嘉浩については、今までその作品を意識したことがなかったのですが、小西康陽のブログを読んで、ついでにネットで川上尚見の写真や真舘嘉浩が過去に手掛けた作品を見ていたら無性に行きたくなってしまったのだ。

展示されている作品は、川上尚見の風景写真と小西康陽の言葉をベースに真舘嘉浩がデザインするというもので、震災以後を意識しつつも、三人があくまでも個人的な心象を表現している点、そして三人で作品を作ることによって、独りよがりになっていないところがすばらしい。
東日本大震災以後、誰もが何かしらの思いや感慨をもっている中で、混乱を抱えつつも作品としてのアウトプットはあくまでも冷静に表現されていて、その混乱と冷静さのバランスが危うい分、見る側としてもちょっと忘れかけていた個人的な感慨がじんわりと呼び戻される感じでした。
ギャラリー内には、ピチカート・ワンの「11のとても悲しい歌」が静かに流れていて、これも作品の風景にぴたりと合ってました。
ただ、どこまで計算されているのか分かりませんが、そのバランス感覚が、見る人によっては「斜に構えてる」という印象を与えるのかもしれない、なんてこともちょっと思ったりします。でもこれはあくまでも三人のアーティストによる作品なので、必ずしも万人に気に入れられたり、見た人が同じ思いを喚起させる必要はなくて、だからこそこれらの作品が出版されたりネットで公開されるのではなく、神保町の小さなギャラリーで静かに展示されている、というところに意義があるような気がしますね(ってしばらくしたあと、作品集が出たりしたらいやだなあ~)。

そういう意味では、前に見たホンマタカシの「その森の子供」も、かなり冷静に東日本大震災以後の世界観を表現していたと思うのですが、個人的な心象をばっさり切り捨てることで、そういうツッコミを排除していたんだなと、あらためてホンマタカシのすごさに気がついてみたりね‥‥。

しかし別に昔からすごいピチカートマニアってわけでもないし、今でも常に活動を追いかけてるわけではないけれど、なんとなく小西康陽に関してはいいようにとらえてしまうのはなぜなんだろう、って読み返してみて思った次第。

 「窓に明りがともる。」川上尚見・小西康陽・真舘嘉浩 三人展
 2012年3月11日(日)~4月6日(金)
 サテライツ・アート・ラボ
 http://sateliteslab.com