「ああ、そうかね」-山田稔-

1996年に発表されたエッセイ集。なので、取り上げられている出来事や映画など、私の記憶にあったりして、「私もこの映画を観に行ったなぁ」とか「このとき~してたなぁ」などと、思い出してみたり、私が読む本で、そんなことを考えながら読めるものもめずらしい。相変わらずいい感じのタイトルは、小津安二郎の映画のことを書いた文章から。

「言葉の過剰が芸を滅ぼす。それは映画・演芸だけでなく、文学の世界においても同様だ。
サイレントといういわば技術的に強いられた言葉の制約を、トーキー時代になって小津安二郎は寡黙の美学として積極的に活用した。小津の映画は比較的セリフが少ない。笠智衆の真骨頂は黙って坐っていることにある。たまにこう言うくらいだ。

『ああ、そうかね、そういうもんかね』」

私も縁側に座って、流れていく世の中の様子をぼんやりと、でもある意味しっかりと眺めながら、秋晴れの空なんて見上げて「ああ、そうかね、そういうもんかね」とつぶやいてみたいものだ、なんてことを思いつつ、まだまだそんな歳でもないか、と思い直してみたり・・・・。