「清水町先生」-小沼丹-

清水町先生とは井伏鱒二のことで、小沼丹が井伏鱒二のことを書いた本というと、関係的には戸板康二が久保田万太郎について書くというのと似ている気がします。でも内容的には、生い立ちから学生の頃からの交友関係、文学・演劇などの分野における功績・・・・など、久保田万太郎の人生や作品に正面から取り組んでいった戸板康二の本と違って、自身が書いた全集や文庫本のあとがきをまとめただけなので、かなりラフな感じです。同じエピソードが何度も出てきたりするし、そのときそのときに思いつくものを書いているようだ。それがまた小沼丹らしいといえば、らしいのだけれど・・・・。

私が手に入れたのは、単行本だけれど、この本は、ちくまから文庫化されていて、小沼丹の本を読み始めた頃、渋谷のパルコブックセンターに置いてあったのをよく見かけたのだが、その頃は、あまり井伏鱒二の本も読み始めていなかったときだったこともあり、「いつか買おう」と後回しにしているうちに、なくなってしまって、後悔してました。ちなみ同じように「いつか買おう」と思っているうちに、手に入らなくなってしまった本に、獅子文六の「てんやわんや」があります。この本もついこの間までは、普通に新刊の本屋さんに置かれていたのに、気がついたらどこにもないという状態になってしまった。最近は新刊でも見つけたときに買わないと、いつ手に入らなくなるかわからん。

この間までちくま文庫復刊アンケートが、筑摩書房のホームページで行われていて、私も何冊か投票したのだけれど、当然この「清水町先生」その中に入っている。単行本を手に入れた今となっては、復刊されても買わないけれど、復刊されるかどうかちょっと楽しみ。結果は11月とのこと。
それにしても総点数1900のうち、品切れ758というのは、どうなのでしょう。確かにちくま文庫は、好きな人は好きというツボを得た本がたくさんあって私も何冊も買っているけれど、どう見ても初版だけ出して、あとはおしまい、売り切れ。という感じが出過ぎで、加えて、再版を考えていないから本の価格も高い。ここ何年かで文庫本の値段が高くなってしまったのは、ちくま文庫のせいじゃないかと思ったりもするけれど、どうなのだろう。「いつの時代でも読むべき価値のある本を、手軽な値段で提供する」という文庫本に対する私の認識はもう古いのだろうか。そもそも“読むべき価値”なんて人それぞれなわけだしね。