「どちらにしろいつか買うだろうし・・・・」と思って、あまり内容を確認もせずに本屋さんで見かけるたびに流していた本。赤玉ポートワインで莫大な利益を得ながら、危険を冒して日本初の国産ウィスキー製造に取り組み、戦後には念願のビール市場参入を果たしたサントリーの歴史を、鳥井信治郎の人物像を中心に、宣伝部に所属していた開高健と山口瞳が描いている。・・・・のであるが、表紙の感じと二人の名前が並んでいることから、てっきりサントリーの歴史や鳥井信治郎のことを二人が語り合うといったスタイルの本だと勘違いしていました。実際に買ってみてページを開いたら、前半に山口瞳の「青雲の 志について」、後半に開高健の「やってみなはれ」と2つの作品が収録されていてびっくり、そしてちょっとがっかり。しかもまだ読んでいなかったけれど「青雲の志について」はすでに持ってるし・・・・。
開高健が芥川賞をとったため、執筆活動が忙しくなり、その代役として山口瞳がサントリーの宣伝部、「洋酒天国」の編集部に入社したという経緯やその後の二人の作風の違いを考えると当然のような気もするけれど、山口瞳の文章に開高健が登場することはあまりないような気がする。開高健のほうはほとんど読んでいないのでわからない。でも二人がサントリーについて語り合う、なんて考えただけでドキドキしてしまう。そんな本を想像していたのです。今となってはすでに二人とも亡くなっているのでもう実現はしないだろう。いや私が知らないだけで、いろいろなところで対談などをしているのかもしれない。
内容としては戦前を山口瞳が、戦後を開高健が書いており、イラストはもちろん柳原良平だ。山口瞳が、社内の熱っぽさに浮かされ、その元となっている社長の鳥井信治郎に惚れ込み、そして自分の父親と比較しながら“私小説”風に熱っぽく語っているのとは対照的に、開高健のほうは、自分のことさえも第三者的にどちらかというと冷静に、ユーモアを交えながら、一代目の鳥井信治郎から二代目の佐治敬三にいたる戦後の様子を書いている。ついでに、会社全体を描いたものではないが、宣伝部内でのエピソードがふんだんに描かれた柳原良平による「アンクルトリス交友録」もあわせて読むと3者の違いが浮き出てくるようで、おもしろい。
話は変わりますが、赤坂見附にある会社で働いていたころ、今くらいの時期になると、会社から地下鉄の駅まで歩きながら、サントリーのビルを見上げて、同じ課の人たちと「梅雨が明けたら一度はサントリーのビアガーデンに行きたいねぇ」なんて言ってましたね。結局一度も実現はしないまま、みんな転職したり、その会社自体も引越ししてしまったので、もうそんな機会はないだろう。