「ごぶ・ゆるね」-安藤鶴夫-

エレベーターを出ると、さっきまでの雨はすっかりやんでいて、ガラスのドアの向こうはまだ明るい。会議室をでたときに、視界の片隅に入った廊下の奥のガラス窓を見た時には、外が暗く見えたので、少しびっくりした。ガラス自体に暗い色が入っていたのだろうか。
4月も終わりの頃になると、6時くらいになってもまだ明るい。冬から春の日々は、春っぽい暖かい日とが続いたと思ったら急に寒くなったり、逆に5月を思わせるような、半袖のTシャツで外に出かけられるような日があったりして、行ったり来たり、時には急ぎ足で時にはゆったりとした足取りで、右に寄ったり左に寄ったりしながら、過ぎていくのだけれど、太陽が出ている時間はそれとは関係なく、寒い日も暖かい日も、晴れの日も雨の日も、毎日規則正しく長くなっていくので、気温に一喜一憂していると、日が長くなっていることを忘れてしまい、ある時、ふといつまでも明るくなっていることに気づいたりします。

春になる前に観ようと思っていた「花とアリス」をようやく借りて、深夜に本の整理などをしながら観る。高校入学前から文化祭までの、二人の女の子の毎日を描いたこの映画は、桜のシーンが印象的ではあるけれど、ちゃんと観てみると春とはあまり関係のなかったりする。
10代の半ばをこんな風に鮮やかに、清々しく過ごしている高校生は、今時いないだろうし、おそらく、どの時代にもいなかったに違いない。でも毎日の生活の中でそのような感情や風景がまったくなかったわけでもなくて、ほんのちょっとかもしれないその感情や風景を、虫眼鏡で拡大したり、足りない部分を補完したりして、この映画は作られている。いや、すべての映画も、小説も、音楽もそうやって作られているんだけれど、その世界観の作り方が岩井俊二はうまいと思う。でもどの作品からも同じような印象を受けてしまうのと、その世界観がどこかあざとい感じを受けてしまうのは、私だけだろうか。