「ナイフ投げ師」-スティーヴン・ミルハウザー-

-■すこしずつ海外文学の本を読むのを増やしていこうと思っているけど、なかなか読めません。昔名に読んでたんだろ?で、ミルハウザー。ミルハウザーの本を読むのはほんとひさしぶり。「イン・ザ・ペニー・アーケード」や「バーナム博物館」など、この作家の作り出す世界が大好きでした。
「イン・ザ・ペニー・アーケード」は、白水社の「新しいアメリカの文学」シリーズから出てて、このシリーズはほとんど読んだんじゃないかな。ポール・オースターの「鍵のかかった部屋」やティム・オブライエン「僕が戦場で死んだら」などもこのシリーズに入ってました。1990年代くらいまでは、同じ白水社から「新しいイギリスの小説」や「新しいフランスの小説」、集英社から「ラテンアメリカの文学」(これは80年代か)、国書刊行会から「文学の冒険シリーズ」など、海外文学の新しい作家を紹介するシリーズがいろいろなところから出てて、片っ端から読んでました。最近は、わりと有名な作家の全集ぽいのは出てるけど、新しい作家を紹介するということがあまりなくなってしまっている印象なのですが、どうなんでしょうか。新潮社のクレストブックくらいですかね。わたしが知らないだけかもしれませんが。ちゃんとチェックしてないという前提で言うと、翻訳という作業が入る分、新しい洋楽を聴いてない音楽ファンよりも、新しい海外文学を読まない本好きのほうが、今は多いんじゃないか?という気もします。

■「イン・ザ・ペニー・アーケード」でもう一つ言うと、b-flowerの「ペニーアーケードの年」というアルバムが出た時に、この人たちもミルハウザーが好きなんだな、と思って、すぐにCD屋で探しに行った思い出があります。音も繊細なサウンドで、歌詞もどこか不思議な感じがして、勝手にミルハウザーとか好きな人の歌だよなぁ、などと思ってました。でもあとから考えると、多分、ペニー・アーケードというバンドのほうのことを言ってたんですよね。ファンの勝手な思い込みでした。
b-flowerは活動休止期間もあったけれど、近年また活動を再開して、年末にはThe Laundriesと対バンでライブをやっていたりしてます。活動再開後はシングルしか出してないんですが、アルバムが出たらまた買うかなぁ。

■さて、「ナイフ投げ師」ですが、表題のナイフ投げや自動人形の作家、遊園地や百貨店の経営者など、前時代的なものが取り上げられ、その魅力に人々が熱中していくにしたがって、その快楽を提供している側もどんどんエスカレートして最後には‥‥という話が、独特の語り口で語られていきます。次にどんな展開が起き、どんな風に人々が熱狂していくのか、そしてどこに向かうのか、独特の世界が題材として取り上げられているだけに予測できないし、読み進めるにしたがってどんどん濃密になっていく世界に引き込まれてしまいます。
翻訳者の柴田元幸もあとがきで書いているように、これ以上、この世界を書き続けてたら、ミルハウザーはどこへ行ってしまうのだろうという気持ちになってしまうけれど、作品で描かれている、遊園地や自動人形館に熱中する大衆のように、作品を読むごとに引き込まれていってしまうのかもしれません。