◆奈良原一高と堀野正雄と口ベール・ドアノー
「田端文士村」と合わせて前々から読もうと思いつつもなんとなく読むきっかけがないままになっていた本。陽気もよくなってきたし、ゴールデンウイークは本郷とか根津とか散歩したいなぁなんていう妄想ついでに読んでました。
本郷菊富士ホテルは、1914(大正3)年に創業された東京大学に程近い所にあったホテル(高級下宿屋?)で、開業当初は外国人客が多かったようですが、次第に谷崎潤一郎や竹久夢二、坂口安吾、宇野浩二、直木三十五、広津和郎‥‥といった文士や左翼活動家などが泊まり込み、活動の拠点となっていたというユニークなホテル。この本では、そんな作家たちの本郷菊富士ホテルの生活ぶりを中心に描きつつ、菊富士ホテル、そして創業者の羽根田幸之助ときくえ夫婦の浮かび上がらせています。まぁ基本、男女関係の話が多いですけどね。大正から昭和の初めにかけて、、この本郷や田端、馬込、阿佐ヶ谷、早稲田
、鎌倉‥‥など、いわゆる文士村と呼ばれた文士が集まっていた地域がいくつかあるけれど、それぞれ特色があっておもしろい。阿佐ヶ谷の作家なんて酒とか将棋の話ばかりで女性関係とかお金とか思想の話なんてほとんどでてこないですものね(あ、太宰治くらいか)。
話変わって、もう終わってしまっていますが、4月の終わりの金曜はフレックスで会社をあがったりして、夕力・イシイギャラリーフォトグラフィー/フィルムでやっていた奈良原一高展、写真美術館で「幻のモダニスト 写真家堀野正雄の世界」「生誕100年記念写真展 口ベール・ドアノー」を見てぎました。
タカ・イシイギャラリーフォトグラフィー/フィルムは会社の近くにあって、ラリー・クラークやアーヴィング・ペン、植田正治、森山大道といった写真家の展覧会を行っているのでチェックしているギャラリー。気が向いたときにお昼休みなどに見に行けるので次にどんな展覧会があるのか毎回楽しみにしてます。
今回の奈良原一高展は肖像をテーマに選定した前期(3月30日-4月14日)と、街をテーマに選定した後期(4月17日-4月28日)と分かれていたのですが、まだ炭鉱として人が働き・暮らしていたときの軍艦島や修道院、刑務所などちょっと特異な場所で撮影されている作品が多いせいもあるかもしれませんが、どちらも独特で力強い世界観が確立されていて、昼休みに気軽に見る感じではなかったかも、なんて思ったりしました。
続けて会社をあがってから写真美術館で「幻のモダニスト 写真家堀野正雄の世界」と「生誕100年記念写真展 口ベール・ドアノー」。写真美術館は木・金が20時まで開館しているのがうれしい。
堀野正雄の写真は、写真そのものよりも雑誌に掲載したグラフモンタージュがおもろしかったです。戦後、写真家としての活動をやめてしまうのですが、50年代、60年代以降の印刷技術が発達して、かつ報道写真として撮るべきものが明確に存在した時期に活動していたらどんな作品を残したのだろうかと思ってしまいました。前にも書きましたが、安井仲治や野鳥康三、中山岩太など戦前の写真家の写真を前衛芸術としてとらえた活動が最近気になります。
最後の口ベール・ドアノーは、先日も書いたようにわたしの中でちょっと再評価しようと思っているところだったのでついでに見た感じ。あらためて作品をまとめて見てみると、すごく自然に撮られた作品と、やっぱりあざといというか恣意的なところが気になってしまう作品と両方ありますね。でもスナップ写真とはこういうものなんだ、ということがよくわかって勉強になりました。もちろんそれによって自分の撮る写真がうまくなるかどうかというのは別問題ですけど。