「ずばり東京」-開高健-

アンソロジーなどに収録されていたものは別として、開高健の本を読むのは実は初めてだったりする。深夜タクシーや屋台のオデン屋、うたごえ喫茶、下水処理場‥‥など、1960年代前半、東京オリンピック前後の東京のあちらこちらに行き、そこにいる人の話を聞くという昭和38年10月~39年11月にかけて「週刊朝日」に連載されたルポタージュ。
あとがきで本人が書いているように、各章をさまざまな文体でかき分けていたりするので、どことなく習作っぽい雰囲気もあるけれど、それぞれの完成度は高いし、それによってより対象に迫っている感じで出ている面もあるので、前後の作品を読んでいないわたしには、この本が開高健の中でどういう位置にあるのかの判断は難しい。ただこの連載が終わった後に、連載終了の褒美として、朝日新聞の臨時海外特派員としてベトナム戦にいくことになったらしいので、ある意味、転機の作品と言えるのかもしれない、言えないのかもしれない。
そして確かに1960年代前半に、その当時の東京を取材したものではあるけれど、取材されている人々の話を読んでいると、実は2006年の今、同じような場所を同じように取材しても、大きな変化はないのではないか、と思ったりもする。確かに表面的な街の様子や人々の暮らしは変わっただろうけれど、実はそれは見かけだけなのかもしれない。いや適当。

そんなわけで、週末は、ラピュタ阿佐ケ谷でやっている倍賞千恵子特集の「下町の太陽」を見る予定だったのだが、10時半からの上映時間に間に合うように起きれず、断念。下町の工場を舞台に、下町長屋での生活を脱し、ホワイトカラーの団地生活を夢みる若者を描いた1963年、山田洋次監督作、ということで、山田洋次監督や倍賞千恵子にはそれほどひかれないけれど、この本と同じ1960年代初めの東京を描いた作品として比べてみるのもおもしろいのではないかと思ったのだ。映画だったらストーリーだけでなく当時の町並みも映像で見ることができるしね。21日までなのでチャンスはあと一回しかないのだが、はたして見れるかどうか‥‥。