みすず書房の「大人の本棚」シリーズで小沼丹と出会ったことが、私の読書生活に大きな変化と収穫をもたらしてくれた、といっても過言ではない。「素白先生の散歩」もおそらく元の本が手に入りにくいだけにうれしかったし、佐々木邦の「心の歴史」や小津安二郎の「『東京物語』ほか」戸川秋骨の「人物肖像集」などもいつか手に入れて読んでみたいと思ってる。思っているものの、なかなか買う機会がないのは、1冊2400円という値段のせい。だから“大人”の本棚なのかもしれないけど。大人だったら2400円くらいの本をさっと買えるようになりなさい、ということなんだろうなぁ。でも、古本屋に行くたびに、100円均一のコーナーを隅から隅まで探しているような私には、なかなか“大人”になるのは難しい・・・・。
谷譲次の本を読むのは初めてなので、解説に書いてある・・・・谷譲次、林不忘、牧逸馬の三つのペンネームを使い分けて、大正、昭和期に活躍した人で、林不忘の名前で「丹下左膳」などの時代小説、谷譲次の名前でアメリカに渡った日本人の生活を描いた「めりけんじゃっぷ」もの、牧逸馬の名前で探偵小説や現代小説を書いた。作家の長谷川四郎の兄。35歳で喘息による呼吸困難のため死去・・・・ということ以上のことは知らない。
「喘息による呼吸困難のため死去」なんていうと、20代の頃、喘息でしょっちゅうぜいぜい言っていた私としては他人事とは思えないわけで、若い頃は体力があるので、苦しくなったときに強引に力で押して、かろうじて息を吸うことができるけれど、30代になるとその体力がなくなってしまうのだろうな、と思う。話がそれますが、胃潰瘍になって以来、食べるたびに胃が痛くなってしまっていた生魚を、最近ようやく食べられるようになってうれしい。調子に乗って昼休みに海鮮丼など食べたり、刺身をつまみながらビールを飲んだりしてます。思えば、20代の後半は、喘息、胃潰瘍、ぎっくり腰を抱えた体で、フレックスの会社には1時過ぎに出勤、終電で帰ってくるか会社に泊まるという不健康な生活をしてました。終電で帰ってきて普通に吉祥寺で4時くらいまで飲んだりしてたものね。遅くとも1時には寝て、7時に起きるという今では考えられません。でもいろいろな足枷がなくなったらどうなることやら。基本的に人間は、制約がないと3時に寝て11時に起きるサイクルになりがちだ。というか、それが一番快適な一日のサイクルなのではないかと思うのだけれど、どうだろう。
閑話休題。
この「テキサス無宿/キキ」はその「めりけんじゃっぷ」ものとなるわけですが、英語の表記やカタカナが混じったリズム感のある文章は、大正、昭和初期とは思えないくらいモダンで、でもどこか昔の紙芝居のような語り口を感じさせる不思議な魅力があります。記憶があやふやなので具体的には挙げられないけれど、太平洋戦争前、大正後期から昭和初期にかけてのヨーロッパ・アメリカ滞在を直接・間接的に描いた本を、まとめて読んで見るのもおもしろいかもしれない。