■帯にも書いてあるように「なぜ今まで片岡義男の書き下ろし珈琲エッセイ本がなかったのか?」という編集者からの問いかけに答えてつづられたエッセイ集。わたしに限らず、この本が出ることを知ったとき、「ついに片岡義男のコーヒーの本かー!」と思った人は少なくないのでは。そして、片岡義男だったら単にコーヒーについての思い出や喫茶店の紹介などでは終わらないはずと思ったと思う。
実際、この本ではコーヒー豆についてやコーヒーの淹れ方、コーヒーの歴史などについてではなく、コーヒーを飲むシーンが出てくる映画やコーヒーが出てくる歌、マグカップについて、そして片岡義男か若い頃に通った喫茶店(森茉莉も登場!)など、コーヒーをキーに、さまざまなカルチャーとを結びつけた考察が展開されていて期待を裏切りません。なので、珈琲についてのエッセイなんだけど、書かれている内容はわりと範囲が広く、読んでいると次から次に違う話が出てくるような感じなので、もうコーヒーについての文章はお腹いっぱい、ということはない。
加えてそれらに付随して随所に出てくる60年代から70年代のエピソードがおもしろい。子どもの頃の話は昔からエッセイの中でつづられている気がするけど、作家になる前や小説を書き始めたばかりの頃の話は、これまであんまり出てこなかった気がします。「コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。」という自伝的な小説も出してるし(まだ読んでいない)、最近になってこの時代のことがよく語られるようになったのはなんでだろう?特に理由もなくて「そういえば書いてなかったな」というくらいの、軽い気持ちなのだろうか?