「マンハッタンを歩く」-ピート・ハミル-

-■ピート・ハミルの本を読んでいたのは、高校生の終わりから大学生の初めの頃までで、「ニューヨーク・スケッチブック」や「ニューヨーク物語」「ボクサー」などを読んだ記憶がある。でも80年代らしい、わりと軽めでちょっとおしゃれな雰囲気の小説という印象が強くて、それ以降はぜんぜん読んでなかった。最近、読んだ常盤新平の本で、ニューヨークに行ったときにピート・ハミルに会った話が出てきて、ふと思い出して読んでみようと思った次第。
帯にはピート・ハミルの自伝的エッセイと記載されているけれど、実際はそれほど自伝的な感じはしない。元新聞記者らしく知識と経験をもとに、オランダ人がニューヨークに移住してきた19世紀から、その後、アイルランドやイタリア、アフリカ、アジアなどさまざまな国の人が移住してくることで、街が拡大・変化していく様子が、その時代のニューヨークを代表する人物を中心に書かれている。もちろんニューヨークで生まれ、育った自身の経験も書かれているので、思い入れやノスタルジーがあふれ出ることもあるけれど、それにおぼれることはない。それはこの本を書くきっかけとなったのが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件だったということにも関係するのかもしれない。
そういう意味でひさしぶりにピート・ハミルの本を読んでちょっとイメージが変わったかな。大酒飲みだったピート・ハミルが37歳のときに断酒した顛末、そしてそれまでの友人たちについて、自身の半生などをつづった「ドリンキング・ライフ」もどこかで見つけたら読んでみたい。最近、わたし自身、自分でもちょっと飲みすぎだなと、思うことがまぁまぁあるけれど、アメリカ人の飲み方とかもうぜんぜん違うんだろうな。いや、「ピート・ハミルに比べれば‥‥」と、安心するために飲むわけではないですよ。

■ところで直接なにがあったというわけではないのですが、アメリカ同時多発テロ事件のあと、なんとなくアメリカ文学を中心とした翻訳文学に興味がなくなってしまい、日本の小説ばかり読むようになったんですよね。それまでも少しずつ食べもの関連の本や阿佐ヶ谷文士の本など、日本の作家の本を読むようになっていたし、特にテロ事件自体に衝撃を受けたということもないので、たまたま自分の中のタイミングと多発テロ事件とのタイミングが合っただけだと思うのですが、いまだに何でだったのかな?と思う。
そういうことがあって、持っていた海外文学の本を売ってみようと思い立ち、始めたのがカヌー犬ブックスなのですが、6月10日で15周年を迎えました。専業で古本屋をやっているというわけでもないですし、実際のお店があるわけでもないですし、自分がやめようと思わない限り続けられるという状況なので、15年続けたからといって、なんということもないんですが、それでもやめなかったのは、コツコツサイトを更新する作業も含めてわりと楽しくやってこれたからかな。わからん。
わざわざこんな個人のサイトを見にきていただいたり、さらに本を注文していただいたり、15年間ありがとうございました。ここ数年は、わりと無理せずにのんびりやってきた感じでしたが、今年、3days Bookstoreに参加するようになって、ただ出店するだけではなく、参加するほかの古本屋さんと一緒にイベントを作っていくという感じで、皆さんの話を聞いたりしていろいろ刺激になってます。この刺激が消えないうちに20周年に向けて動いていければと思っていますので、これからもよろしくお願いします。

「ロボッチイヌ 獅子文六短篇集 モダンボーイ篇」-獅子文六-

-■モダンガール篇と同時に刊行された、男性を主人公にした作品を収録した短篇集。ちゃんと覚えてないし、調べてもいないのだけれど、なんとなく読んだことがある作品が多い気がしました。
モダンガール篇では当世風の考えをした女中など、その当時の風潮を取り入れつつ、「おっそうきたか!」と思うようなキャラクターが、活躍(?)していたのに対し、モダンボーイ篇では、作者、もしくは作者をベースにした主人公の作品が多かったりするので、モダン「ボーイ」とという感じではないかもしれません。やっぱり女性のほうが世相に敏感だし、ストーリーにあったいい感じのキャラクターを作りやすいのだろうか。男性をデフォルメするとなんかイタイ感じになりそうだしね。あとこの本に限らず、長編でも獅子文六の小説では、全体的に女性のほうが強いというかキャラが立ってるような気がします。男性はわりと情けない場合が多いですよね。
なので、モダンボーイというテーマとしてはちょっと弱いのですが、どの作品も話としては獅子文六らしいし、当時の世相をユーモアたっぷりで皮肉ったもの(と言っていいのかな?)、私小説風なもの、パリを舞台にしたもの、幻想文学みたいなものなど、さまざまな種類の話が収録されているので、獅子文六をはじめて読む人でも楽しんで読めると思います。長編もストーリーが起伏に富んでいるので読みやすいけれど、新聞小説が多いのでまぁまぁ長いですから。
しかし、編者の千野帽子も書いているように、「ライスカレー」の終盤の展開はヒドい。そしてこの作品を一番最初に持ってくる千野帽子も性格が悪い(いい意味で言ってます)。

-■東京蚤の市に続いててのわ市も無事終了しました。当日は天気もよく、かなり暑い一日となりましたが、たくさんの人に来ていただき、大盛況のうちに終えることができました。
ここ数年、東京蚤の市では屋内に古本街が設置されているのですが、外でお店を出している人はこんなに暑い中に1日いるのだなと思ってしまいました(時には雨が降ることもありますし‥‥)。空調が効いた屋内のありがたさを実感しました。逆に屋外の心地よさもあるし、会場の様子がわかるという利点もあるんですけどね。
てのわ市は、駅からちょっと離れていることや、公園ということもあり近くに住んでいる家族連れの人が多く、お店の前で座り込んで絵本を見ている子どもやお母さん、お父さんがたくさんいました。子どもの本ってすぐには決められないし、子どもたちに気に入ったものを選んで欲しいので、次回こういうイベントに出店するときは、小さなイスを持って行こうと思います。
次のイベントは、3月に行った3days Bookstoreの2回目です。今のところ7月の終わりくらいに開催される予定なので(まだ未定)、エアコンの効いた部屋でのんびりしたり、喫茶店でコーヒーを飲みながら読めような、夏の読書に合いそうな本をセレクトするつもりです。詳細が決まったらまた告知しますので、よろしくお願いします!