「真夜中のギャングたち」-バリー・ユアグロー-

-■鈴木清順、深作欣二、北野武といった日本のヤクザ映画やギャング映画が好きというユアグローによる、ギャングを主人公にした短編を47編収録した短篇集。短編といってもユアグローなので、どれも1ページから5ページくらいの短く、そこにいたる過程はもちろん、主人公の経歴や心理、周辺の状況といったことは描かれません。1行目からいきなりやばい状態になり、事実のみが淡々と描かれ、最後にストーンと話が落ちていきます。柴田元幸の翻訳の文章も内容に合わせてかいつもと違っていて、かなり硬質な文体になっている気がするけど、それは気のせいかもしれません。
どれもだいたい悲惨な結末なのだけど、きちんとオチもある。幽霊が出てきたり、空中浮揚するチンピラが出てきたりする非現実的なものもあるので、ギャングもののみで47編あるにもかかわらず、読んでいて飽きないです。でもやっぱりいっぺんに読むよりも1日5編ずつとか少しずつ読んでいく形がいいんでしょうねぇ(これはほかのバリー・ユアグローの本にも言えるか)。といっても寝る前に読んだら悪い夢を見そうな気もしますが‥‥。
ヤクザ映画のなかの一つのエピソードや一場面をスケッチしたという趣なので、読んでいるとどこかタランティーノの「パルプフィクション」を見ている感じがします。これらの話をいくつかピックアップして矢継ぎ早に見せつつ、出てくる登場人物の相関関係をうまく作って、最後にはなんとなく話がつながってる、みたいな形にしたらおもしろい映画になるかもしれません。いや、適当。
あとがきにバリー・ユアグローが好きなヤクザ・ギャング映画のリストがあってこれも興味深いですよ(あえてここには書きません)。

■先週末は天気予報が雪だったこともあり、金曜日に子どもたちが見たいと言っていたDVDを借りつつ、夜自分が夜見るために「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」を借りてみました。自分が見るためにDVD借りるのなんていつ以来だろうか?でも、普段映画を観なくなってしまったので、いざ借りようとしてもぜんぜん映画のタイトルが思い浮かばなくて、まいった。これは前にブライアン・ウィルソンの「ラブ・アンド・マーシー」を観たときに予告でやってて、観に行きたいなと思ったのが記憶に残ってたんですよね。やっぱり予告編、というか映画館での映像の記憶は大事。ニュースとかでタイトルだけ見ても時間が経ったら記憶に残らないもの。
という話はおいといて、「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」は、ベル・アンド・セバスチャンのスチュアート・マードックが、脚本と監督を手がけた映画で、拒食症の治療のため入院していた女の子と売れないミュージシャンの男の子、そして彼が音楽を教えている女の子の3人が出会い、一緒に音楽を作り初め、ライブをやるまでが描かれます。
ちょっとミュージカル映画ぽくなってるところもあり、もう、主人公たちが、グラスゴーの街のいろいろなところで、スチュアート・マードックが作る歌を歌い踊ってる場面を見てるだけでいい!という感じなんですが、そんな中で、登場人物たちの暗い部分もきちんと描かれてて、そのバランスが見ていて心地よかった。多分、登場人物たちの内面にもっと切り込んでいって、時には衝突したりしながら物語を進めていくことも、逆に音楽とファッションをもっと中心においてスタイリッシュでおしゃれな映画にするという方向もあると思うんだけど、どちらにも偏ってないところが、ベル・アンド・セバスチャン、はたまたイギリスのインディーポップのバンドのたたずまいに合ってる気がして、なんか懐かしい気分になってしまいました。
シンプルに「拒食症で入院してる一人の女の子が、音楽を作ることによって、自分の生きる方向を見つけ、より広い世界に旅立っていく」というストーリーとして考えちゃうと、わかりにくい部分やものたりない部分があるんだろうと思う。でもこれを見る人ってだいたいベル・アンド・セバスチャンとかインディーポップが好きな人だろうしね。個人的にはこういう隙間のある映画が好きってことを再確認しました。次なに見よう?