「退屈の利用法」-植草甚一-

-■亡くなる直前まで入院していた伊豆韮山温泉病院のベッドでつづられた日々の断片的な文章を中心に、70年代後半に発表された本や映画、ニューヨークでのことについてつづった単行本未収録のエッセイが収録されている。
亡くなる直前の日記ではあるけれど、カバーに「病院生活にはいってから、それが長引くだけの現在。退屈でしようがない。ぼくは『退屈でしようがない』心理状態の利用法はないだろうかと考えてみた。それから病院の事務室で買った90円のノートブックの表紙に『退屈エネルギー利用法』と大きく書いた。」とあるように、切実に死が迫ってくるような感じではなく、入院生活がただただ退屈で、いろいろ妄想してみたり昔のことを思い出したりしている。それが植草甚一らしいと言えばらしいし、逆に読んでいるとその無邪気さに寂しさがにじみ出てくるような気がします。後半のいつものエッセイも、それにつられてなんとなく寂しく感じてしまいますね。

-■植田正治の集大成的な写真集が出たとのことで、それを記念して15日まで神楽坂のla kaguというところで写真展が開催されていることを知り、神楽坂に行ってみました。
神楽坂なんてふだん行かないので、la kaguという場所も知らなかったので、駅から出たらめちゃくちゃおしゃれな空間でびっくりしました。トークショーなどのイベントをやるための会場の壁に写真が展示されていて、点数的にも見せ方としても物足りない感じ。まぁこういう場所だったらそうですよね。どちらかというと年末に行われた飯沢耕太郎と金子隆一のトークセッションがメインだったんですかね。きちんとどんなところでやっているのか調べないで行ったわたしが悪いです。でも、植田正治の写真は、ちょこっとでも機会があるごとにオリジナルプリントを見ておきたいという気持ちもあるのでこれはこれでよしとします。
写真集のほうは、大判のかなり厚い豪華なものでほしいとは思うけど、16000円は値段的に今のわたしにはちょっと手が出ないなぁ。

■いや、「今のわたし」ではないですね。というのも、その前日に中目黒のデッサンという古本屋でSWISH!のニットを見に行ったときに、お店の本を見ていたら、「青春図會 河野鷹思初期作品集」があって、発売した当時欲しかったんだよなぁ、なんて懐かしい気分になったから。たしか18000円位したんじゃないかな。表参道の青山ブックセンターに平積みしてあるのをずっと眺めていた思い出があります。写真集でもデザインの本でもやっぱり10000円くらいまでかなぁ。
中目黒では、寒かったこともあり、アラスカでごはんを食べて、カウブックスに行ってすぐに帰ってきてしまいました。もうどこにどんなお店があるかぜんぜんわからないしね。うちの夫婦とっての中目黒はオーガニックカフェがあった頃までです。
あと、どちらの古本屋さんもめずらしい高価な本がたくさん並んでいて、都会を感じました‥‥

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「ラブレーの子どもたち」-四方田犬彦-

-■澁澤龍彦の反対日の丸パンから、ロマン・バルトのてんぷら、谷崎潤一郎の柿の葉寿司、ポール・ボウルスのモロッコ料理そして明治天皇の大昼食まで、古今東西の芸術家が好み、レシピを残した料理を実際に作って食べて語った本。こういう本ってわりと写真が中心になってしまい、文章はそれを簡単に説明するだけ、みたいな形になりがちなんだけど、それらの料理と芸術家たちのエピソードはもちろん、それぞれの国や地域、そして時代に根ざした文化的な背景が詳しく記されてるところがいい。
掲載されている料理の写真も、きちんとコーディネートがされているのだけれど(料理自体も専門のレストランや料理学校の人が作っているとのこと)、過度な演出があるわけではなく、シンプルに料理そのものを紹介していて、本の内容と合っていると思う。
続編を読んでみたいけど、この本が出てからもう10年以上経っているのでもう出ないんでしょうねぇ~

■慌ただしく年末年始も過ぎて、2017年。2016年は26冊しか雑記を更新できませんでした。読んでる本はもう少し多いので30冊ちょっとというところですかね。しかも身辺雑記的な随筆や食べものについて本ばかりで、小説とかまったくなし。もうラテン文学とかメタフィクションとか読めないなぁと思うけど、気軽に読めるし今の自分には合ってる。
今さらですが、カヌー犬ブックスは、料理系の本を中心にしてて、初めて会った人とかに「どんな本を扱ってるんですか?」と聞かれて「料理や食べもの系が多いです」って答えると、わりと、特に男の人には、「ふーん(自分には関係ないかな?)」という感じになりがちなんですよね。でも、レシピとかは料理に好きかとか読み手を限定してしまいますが、食べもの関連の随筆は、別に食べものに関して詳しく解説しているわけでもないし、書いている作家もどちらかというと力を抜いて書いていて読むほうも構える必要はないし、わりとみんなに薦められると思ってるんですよ。そもそも普段料理をしなくて、別に料理が好きじゃない人も、食べものを食べない人はいないですしね。
というわけで、今年はもう少し、食べもの関連の随筆のおもしろさを伝えていけたらと思ってます。どういう風にしようかはあんまり具体的に考えてませんが‥‥
お酒についての随筆もたくさんあるので、泥酔ファンクラブの人たちも読んでほしいなぁと思っています!
そんなわけで、今年もよろしくお願いしますー!